法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『劇場版 今日から俺は!』

 志望校を落ちたため、不良ばかりの開久高校に入ってしまった気弱な少年がいた。より凶悪な北根壊高校が開久高校へ間借りすることになり、さらに少年は窮地に立たされた。そこで少年を従姉妹のスケバンが守ろうと介入したり、なぜか北根壊高校のトップも守るそぶりを見せたりするが……


 西森博之の同名漫画を原作とした2018年の連続ドラマにつづく、2020年公開の日本映画。ドラマと同じく福田雄一が監督と脚本をつとめた。

 1970年代を舞台としている導入に、原作漫画を流し読みしたりOVAを視聴した時の記憶との食い違いを感じたが、ドラマからつづく実写オリジナルの設定らしい。
 しかし時代設定にそれらしさを感じたのは冒頭の資料映像がノイズ混じりのスタンダードサイズになっているところだけ。本編に入ると何も古さを感じない。それなりに時代遅れの地域でロケしているものの、通行人のファッションも現代と大差ない。
 現代らしさがないのは物語に携帯電話が登場しないところくらいで、それだけなら原作と同じ1990年代に設定するだけで良かったし、登場する不良が時代錯誤という設定で2010年代にしても良いだろう。現代社会で前世紀の不良漫画を映像化する意味を考えていないのではないか。


 時代をまったく再現できていないことが象徴するように、映像全体も安っぽい。美術セットは再現ドラマレベルだし、全体的に光量が足りなすぎる。暗所のアクションシーンはまだいいが、室内の家族との団欒が薄暗いのは演出として成立していない。
 福田雄一のわりきった映像には劇場作品らしさがなさすぎる。同じように映画なのにTVドラマのようだと評されてきた本広克行堤幸彦は、まだしも映像に予算をつかっている感じは出せていたし、そもそもふたりともTVドラマでは逆に映画のようなスケールや演出が楽しめる監督とされていた。
 主人公コンビが印象に反してあまり戦わないところも謎。女子生徒同士のキビキビしたアクションは意外な見どころで、さすがにクライマックスの集団抗争も数十人のスタントマンを集めて見ごたえあったが*1、主人公コンビの活躍はやはり少ない。成長もなければ活躍もなく、人間関係の変化にも特にかかわらず、主人公として存在する意味が見えない。そもそも物語の本筋に主人公コンビが関係なく、たまたま利用されたり敵対されるだけなのだ。


 本筋については、美化された漫画らしいヤンキーを主人公側が担当して、学生を階級的に支配する陰湿な不良が敵になる構図は良かった。
 しかし志望校を落ちたため不良高校でいじめられ利用される少年が、その場しのぎでつくウソの意味がわからない。親身になってくれる格闘技少女が不良へかたきうちすることをふせぐため、とても強い不良……つまり主人公にいじめられたとウソをつく。当然のように格闘技少女はそのウソを信じて主人公を敵だとかんちがいして襲いにいく。強い不良が相手なら格闘技少女がビビるとなぜ思ったのか、少年の判断の根拠がさっぱりわからない。
 そこから登場人物が成長にしても破滅にしても、変化らしい変化をまったく起こさない。それゆえドラマとして成立していない。どこまでもTVドラマの延長で、どうやら舞台から退場した敵キャラクターの再登場がクライマックスの見せ場となっていて、劇場版しか見ていないと置いてけぼり。意味不明なウソをついた少年もそれを反省して成長するわけではない。それでいてそのウソがなければ主人公コンビは物語の本筋にかかわることがいっさいできない。

*1:アクション監督は『シン・仮面ライダー』の田渕景也。