法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ビッグ・フィッシュ』

ティム・バートン監督による、2003年公開の作品。
父が息子へ語り続けた武勇伝を、あえて馬鹿馬鹿しい特撮で描く。事実の核あってこその誇張された法螺話なのだが、比喩表現であるはずの時間が止まるとか動くとかいう場面まで本当に時間停止してしまうところが笑える。まるで『ドラえもん』だ。
幻想的な回想において、ちゃんと喪われるものの痛みが描かれることも興味深い。てっきり幻想的な美しさとの落差は現在の現実との対比だけで描くとばかり思っていた。かつて美しかった田舎町に新しい道路が通り、“みんな”大好きな資本主義で没落していく構図は『カーズ』*1でも見られた題材。


成功者となった後のティム・バートン作品は、劣等感を基礎においていた時期の作品と比べて、稚気あふれた表現が上滑りして感じることも多い。しかし、この作品は落ち着いた現実世界から幻想的な回想場面を見つめる形式を持ち、監督の現状が見事に物語と二重映しになる。あまり制作者と作品を同一視してはならないが、とりあえず良い作品と感じられた理由の仮説としてメモしておく。
もちろん、監督の父が前年に倒れたことも作品へ影響を与えているのだろう。個人的にも、視聴していた時期に親類が病で倒れたりしたので、笑いで装飾された影にうかがえる現実の痛み、喪われるものへの祈りが実質以上に深く感じられた。……逆にいえば、別の時期に見ると面白く感じられなかったかもしれないな。