法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『殺しのドレス』

精神分析医のカウンセリングをすませた美女がエレベーターで殺害された。コンピュータにはまっている息子と、殺害現場にたちあった娼婦が事件を追うと、謎の女性の姿が周囲をちらつく……


ブライアン・デ・パルマ監督による1980年公開のサスペンス映画。ヒッチコック作品にオマージュをささげたエロティックスリラーになっている。

たしかに美女が美術館をさまよう場面は『めまい』*1を思わせるし、冒頭から出ずっぱりの美女が前半で殺されて主役を交代する構成は『サイコ』*2と同じ。いかにもヒッチコック好みっぽい金髪美女のシャワーシーンから情事までエロティックな見せ場も多い。夜の街のきらびやかさや、孤独感などはデ・パルマ監督の作風だろう。


しかし、どんでん返しがすごいと聞いて期待していたため、びっくりするほどつまらなかった……
犯人像も設定も『サイコ』と大差ない。源流ゆえのシンプルな力強さあった『サイコ』は真相を予想できてもサプライズがあったが、『殺しのドレス』は手垢のついたネタを工夫なく使っただけに感じられた。
一応、娼婦を追いかける金髪女性にひねりを少し入れているが、そこで真犯人を容疑の輪から外す描写が充分でなく*3、驚かそうとする努力が足りない。
トランス女性の凶悪犯という設定や、娼婦が駅舎で黒人不良集団にからまれる場面など、当時の偏見が記録された部分は良くも悪くも浅くて印象に残らない。トランス女性の現実の苦難を劇中TV番組で言及していたのは悪くないが。
ただひとつ、すべての真相があばかれたかに見せて……というサプライズは良かったが、同監督がすでに『キャリー』で使っていたように、ミステリというよりホラーの文脈なので……

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:hokke-ookami.hatenablog.com

*3:真犯人が同時間帯に遠方の集会などに拘束されていた……くらいの展開はできたはず。