偕成社の児童向けミステリアンソロジー「きみも名探偵」シリーズの10冊目。ライノノベル化いちじるしい最近の児童書だが、悪い意味での“ライト”さを感じてしまった。
上*1は表題作において「あら、どうしてですの?」*2といった、お嬢様言葉を話すキャラクター。色々な意味で典型的すぎるデザインだ。当然のようにわがままな言動で主人公をふりまわす。
逆に冒頭の作品では、以下のように「おじょうさま語」へ突っ込んだりしている*3。
「脅迫文そのものですわよ。『みそしるを飲むな』と、おどしているんですわ。」
いつも朝一番で登校している、倉橋しずかがいった。みょうな「おじょうさま語」は、最近アニメの影響で使いはじめたらしい。
どうにもアンソロジーとして、きちんと統一を図れていない感が強かった。
……そのグダグダさが、ある意味では面白かったが。
以下、ネタバレをふくむ各短編の感想。
『名探偵カオリ 初めての推理』小野靖子著。ちゃんと伏線を張ってあるし、犯人や動機に意外性もある。謎の文章が核になっているため、児童向けミステリにありがちな暗号クイズのたぐいという印象もぬぐえないが。
『消えたぬいぐるみのなぞ』緑川聖司著。「万屋真之助の事件簿」シリーズの一編。犯人も方法もありきたりで、動機は唐突。ただし真相が明らかになった後も謎解きがあり、そちらは悪くない。
『消えた転校生!?』服部千春著。少女マンガ的なお約束を堂々と工夫なく使っていて、どうしようかと思った。メタ児童小説としての面白味を感じるべきか。
『夏の日のタイムマシン』藤咲あゆな著。やはり暗号クイズが主。泣かせだったり、淡い恋だったり、ありきたりなネタを詰め込みすぎて結果的にどれも浅い。
『怪盗シャラクのひみつ』山田陽美著。犯罪を扱っているが、せいぜいが少年探偵団亜流。
『誕生日プレゼントはなぞの文字』河俣規世佳著。思いついた暗号クイズを使っているだけで、話が薄い。クイズはアンソロジー中で最も作りこんだ難解さではあるが。
『青いジャッカルのなぞ』円山夢久著。アンソロジーで唯一、大人を主人公とし、殺人を扱っている。ライトなSFハードボイルド短編として楽しめた。ただし、どんでん返しは伏線がきちんと張られているものの、作中ルールが漠然としていて、本格ミステリとしての厳密さはない。