チャットで出題されるミステリクイズ、ただし事件は作中現実において出題者が実行したものばかり。事件が一つ解決するごとに犯人と探偵が入れ代わり、死体の山が築かれる。
作者や読者の人間性を疑われるような設定だが、特にサイコサスペンスという雰囲気でもなく、普通の本格ミステリを読む気分で楽しんでしまった。
以下、ネタバレをふくむ感想。
出題者が実行者であるため、基本的に動機や犯人を推理する必要はなく、不可能犯罪をなした方法や犯罪に隠した意図が謎解きの対象となる。
主要ネタの多くは、ネットコミュニティの設定を知った時点で予想していた通り。叙述トリックも、チャット相手が知人だったという真相も、ミステリに限らずインターネットを扱った小説ならば、最初に想像してしかるべき。
しかし、ネタのからめかた、そして別の方向に読者を誘導して驚きを増すミスディレクションの技巧がさえ、ありがちなネタでも解決に爽快感がある。
個別の殺人事件も古典的なトリックの変奏曲がほとんど。それは作中でも意識的に言及されている*1。特に第五章にあたるQ5「求道者の密室」の真相は古典的としかいいようがないのに、それを現実で実行できる状況の用意や伏線の提示で、きちんと現代ミステリとして楽しめるように完成されている。
もちろん、個々の章にばらまかれた伏線が収束し、最後で一本の長編小説としてまとまる連作ミステリならではな構成もされている。Q1「次は誰を殺しますか?」の、登場人物にすら「間延び」*2といわれるつまらなさすら、一つの伏線だったとは思わなかった。
最後に、物語は本格ミステリから異なるジャンルへ移行する。つまり、ネット上のキャラクターを演じていた者達から、顔を持った人間たちの物語へと移行する。
結局は「044APD」通称コロンボを主人公が超えることがなかったと思うと、空虚な殺人鬼に少しあわれみを感じてしまった。
また、結末で本格ミステリ的なクイズ自体について飽きたと登場人物が語る場面は、本格ミステリリーグから離れつつある作者の心情かとも思った。確かに、極北化し続ける本格ミステリのありさまには、何も感じないかというと嘘になる。それでも、まだまだ本格ミステリで書けることは残されているとも思うが。