法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『名探偵 木更津悠也』麻耶雄嵩著

白い幽霊が出没する地域における、四つの不可能犯罪からなる連作短編集。
とりあえず正体は棚上げにして、白い幽霊に対する人間の反応を考慮し、探偵が事件を読み解いていく。西澤保彦作品のような、SF設定を取り入れたミステリに近い手ざわり。
名探偵の事件に対する態度を崇拝しつつ、探偵の推理能力に苛立ちを感じている助手も、良い性格をしている。


以下、ネタバレをふくむ個々の感想。
『白幽霊』路地で出没する白幽霊の存在が重要な鍵となる一編。しかし白幽霊の存在がなくても犯人を指摘することは可能。解決編の光景が脳裏に浮かぶほど明確な点が良い。逆に、麻耶作品としては真相が単純すぎるとも思ったが。
『禁区』学園内の密室的な状況を扱う。『白幽霊』に続き、状況を映像として思い浮かべることで真相に到達するが、こちらは脳内で像が結びにくい。現場の見取り図があれば、解決場面で素直に驚けただろう。しかも心理的な手がかりにすぎず、真相を聞いても納得しにくい。心理状態さえ推理できれば、全ての描写が一点に収束する快感を味わえるだけに、その一点に納得いかないと全体にも納得がいかなくなってしまう。逆に、真相を知ってから思い浮かぶ情景や、白幽霊の描写等、怪奇幻想小説としては悪くない。マンガなりドラマなりでビジュアル化したものを見てみたい一編。
『交換殺人』島田荘司編集によるアンソロジー『21世紀本格』ですでに読んでいた。先端科学を用いたミステリが多く収録されていた中で、古典パターンを深化させただけの作品はいいアクセントになっていたが、ただシリーズ作品の一編を収録しただけだったのか。アンソロジーを読んだ時に説明されず首をかしげた白い幽霊の正体を今ごろ知ることになるとは……
『時間外』ビデオテープに関して、『禁区』と同じく被害者の心理を推理する箇所は少なからず無理を感じた。ホラービデオを一人で見るのは怖いとか、ビデオ店の袋が……とか、どの心理状態も個人差が大きいのではないか。犯人の意外性は良かったが。