法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『9.11アメリカ同時多発テロ 最後の真実』

アメリカABC制作のドキュメンタリードラマ。
資料映像を多用しているが、それはあくまで現実味を出すためで、マスード大佐がらみの戦闘などで力の入った映像が見られる。


1993年の貿易センタービル爆破テロ捜査に関わった男が、後にFBIを辞めさせられて貿易センタービル治安担当へ転職し、9.11テロで死亡するまでの数奇な8年間という観点でまとめていたのは、物語として良かったが……対テロという大儀で違法捜査を欲し、人権尊重を後悔しているかのようなトーンでまとめられていたのは、FOXテレビの連続ドラマ『24』を思い出させる安易さだ。
いや、『24』は長時間にわたるドラマなので、人権を無視した捜査が困った結果を引き起こすこともあるという描写がいくらか入っており、まだ比較的に視野が広いとすら感じる。9.11後、拙速に情報を求めて人的資源が不足し、アブグレイブ刑務所のような悲劇を生み出したという視点が全く欠けているのはドラマとして見ても座りが悪い。たとえば捜査権が制限されて悲劇を防げなかった今回を前編とし、続編として捜査権が濫用されて悲劇を起こした後編を作れば、良い対比になったかもと思うのだが。
たとえ違法でなくても、無数に集めた情報を選別するのは困難を極めるわけであり、実際に予兆がふくまれていたからといって、情報収集者へ全権を与えるべきだったとは思えない。あえていえば、情報が錯綜するほどテロリストの活動を活発化し、交渉や制裁といった外交努力で抑えられなかった時点で、どういう捜査をしようとも対症療法でしかなかったのではないだろうかとも思う。
もちろん、全ての状況を2時間で描き切れるものではないだろうし、捜査する側の主観でドラマが進行していることは明瞭だ。だから、描かれていない視点については個々の視聴者が補完すべきなのかもしれないとは思う。


それにしても、そもそも何が「最後の真実」なのか、最後まで見てもさっぱりわからなかった。
9.11の予兆である情報をいくつか米国がつかんでいたという、ドラマの主軸となっている情報は、ずっと前から報じられている。米国で制作され放映された時点では新情報がふくまれていたのかもしれないが、少なくとも現在の観点からでは目新しい重要情報は無かったと思う。