法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『だましゑ歌麿』

寛政の改革歌麿をめぐる連続殺人を描いた歴史推理ドラマ。高橋克彦の原作小説は未読。
歌麿を演じる水谷豊は、荒げた声の演技が甲高くて、エキセントリックな芸術家を演じると感情移入しにくそうだと思っていた。しかしドラマで探偵役として事件を捜査していくのは同心の橋之助だったので、幸いにも違和感のある場面は少なかった*1。むしろ過剰な演技により、歌麿が善か悪かあいまいとなる、結果的にいい配役だったと思う。


物語は高橋克彦らしく、堂々と庶民文化尊重を訴えかける内容。
人が生きるには健康だけでなく文化的な喜びも最低限必要ということ、そしてその文化に枕絵がふくまれることは、当時の固有な文化状況を表現しつつも現代に通じる普遍的な主張であり、好感を持てる。他方、それを主張するのが権力側に立つ同心というのは、庶民目線の権力者が全てを解決する時代劇一般の欠点に通じる*2歌麿の意図を代弁しつつ、捜査に必要な権力を両立させるため、同心という立場に設定したのだろうとも理解するが……


しかしクライマックスで、江戸川乱歩バリのトンデモ真相が開示され、社会派的な感想を吹き飛ばす。そして物語は一気に幻想推理へ変貌する。
いや、最近の二時間ドラマでも怪人20面相レベルの変装が出てくるし、作品の雰囲気に合っている感もあるのだが、けっこう真面目に見入っていたので呆然としてしまった。最後の最後でこういう笑いを取りにくるのは卑怯だ。


いかにも歴史物らしく、史実の人物が様々に関わってくる描写とか楽しめる部分も多かったが、最終的には『クリムゾン・リバー』と同ジャンルになったという感想。

*1:そもそも画面に歌麿が登場する時間自体も少なく、水谷豊が主演という扱いは宣伝のためでしかなかった感じ。

*2:佐武と市捕物控』の特異性と面白味は、権力者と庶民の中間、聖別された被差別者、それぞれ境界線上の設定が主人公に付与されている点にある。