法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『デリシャスパーティ♡プリキュア』第14話 初恋ってどんな味?恋するキモチと拓海のこたえ

放課後、公園で品田が後輩の少女から告白されていた。それを見かけたローズマリーたちはもりあがる。いっしょにいた和実もすごいと思うが、あくまで他人事と考えていて……


永井千晶が二度目の脚本。ブラックペッパー……いったい正体は誰なんだ、たくみに隠されていてわからないぞ……というつまらない冗談はさておいて。
これまで遅くともていねいにプリキュアの外の人間関係も描いてきたおかげで、設定開示は先のばしになっているのにドラマとしては問題なく楽しめた。品田とクッキングダムをめぐるプリキュアとしての縦軸と、品田と和実のあわい恋慕をめぐる人間としての横軸をうまく交差させて、ゲストキャラクターをまきこんでの甘酸っぱい恋愛ドラマはさくさくストレスなく進行できたのが良かったのだろう。


プリキュアとしてはホットサンドメーカーが怪物化してキュアスパイシーが対抗意識を燃やしたりしたところは良かった。ナルシストルーがプリキュアの各戦力を分析する描写も、次回以降の布石になるのなら期待できる。
ただブラックペッパーの介入で危機を脱した後、復活した敵をすぐキュアプレシャスが攻撃してそのまま必殺技に移行したのは、ちょっとアクションの組み立てとしてうまくない。良くも悪くもブラックペッパーの戦闘への貢献度がさがり、用意さえできていれば現行戦力でなんとかなってしまう感じが出てしまう。いや、キュアプレシャスはもともとそういうパワーキャラといえばそうなのだが……

『ドラえもん』かわいいジャイアン/シンガーソングライター

 今回は数回前から予告されていたジャイアンの誕生日SP。新曲発表はEDにまわされているが、内容の連続性がたかくて全体でひとつのストーリーを構成している。


「かわいいジャイアン」は、のび太たちはリサイタルや料理から逃げるため、ジャイアンは家族に祝ってもらうべきと提案する。しかし剛田家でジャイアンが祝われるようすはなく……
 清水東脚本のオリジナルストーリーで新人の森山瑠潮が2度目のコンテ演出回。構図やカメラワークは才気を感じるが、PANなどの動きがなめらかでなく微妙な違和感があったのは意図した演出か、新人らしい経験不足ゆえなのか、それとも視聴している側の気のせいなのか。
 祝ってもらうジャイアンは「ハッピーバースデイ・ジャイアン」、幼いころは幸せだったと疎外感をおぼえているところにサプライズで祝われる展開は中編アニメ映画『ぼくの生まれた日』を少し思い出すストーリーだが、似た状況というだけでオリジナリティは高い。炭水化物多めの食卓が、育ち盛りの男児向けの誕生会として正解。それでいて家庭で可能な範囲でパーティー感がある盛りつけにできている。リサイタルをやりなおすオチも予想できるが、直前に止め絵演出までつかって感動的に落としきっているので、ちゃんと笑えるギャップが出ている。
 しかし今回はジャイアンが家族にいわってもらおうと「いい子」になっていることで、小学生で小売りの配達をてつだわされることのヤングケアラーっぽさを強く感じた。のび太たちへの暴力もストレスやネグレクトの結果ではないかと思えた。それだけ今回のジャイアンが生きたキャラクターと感じられたということだが。


「シンガーソングライター」は、誕生日でおこなえなかったジャイアンリサイタルを、あらためておこなうことに。せっかくジャイアンは新曲がつくれないと悩んでいたのに、秘密道具で協力することに……
 ジャイアンのゲッソリ顔とドラえもんの「プークスクス」が知られる原作を、誕生日スペシャルにあうようなアレンジをほどこしつつ、ほぼ忠実にアニメ化。
 水野宗徳シリーズ構成の脚本で、誕生日にジャイアンの歌を聞かなくてすんだというところから物語を導入。しかし前半のオチからすると、結局は歌を聞かされそうになったような印象があり、ちょっと前後半の連携がとれていない感じがあった。
 単独で見れば、原作をていねいに映像化していて悪くはない。秘密道具「メロディーお玉」が作曲したが音符を読めないとジャイアンが激怒する描写はアニメでも笑えた。現実におこなっていた企画*1にあわせて「遠写かがみ」をつかって劇中でTシャツを募集するメタなアニメオリジナル描写も楽しい。
 ただ、実際にジャイアンがリサイタルをおこなう描写はEDパートにあてているので、この後半部分だけではオチが完結していない印象が残った。TV番組としては現状でも完成されているが、WEB配信や映像ソフトの収録状況によっては制作意図が理解しづらくなりそう。


 そして先述のようにリサイタルはED映像にまわされたが、迷惑にならないよう宇宙船で地球からはなれた場所でおこなうという趣向。
 前回放送*2モーションキャプチャー用のスーツを木村昴が身につけていたので予想できたが、ライブで歌い踊るジャイアンは3DCGで描画。シンエイ動画のアイドルアニメ『アイドールズ!』の制作の多くを担当した制作会社Ray*3によるものだが、カメラワークともども現代のアイドルアニメレベルのクオリティになっていた。
 そして歌詞は考えられるという後半の物語にあわせるように、実際に新曲の歌詞は声優の木村昴がおこなっている。ならば作曲編曲を担当した木下龍平は「メロディーお玉」だった……?
 ともかく新曲にあわせたジャイアンTシャツは1万人以上から選ばれただけあって本気で良いデザイン。ジャイアンらしさがあり、子供が考えてもおかしくなさそうなシンプルさで、スタッフが調節しているにしてもパーツやカラーの配置バランスもいい。
 リサイタル後の歌のフルはアプリでというドラえもんのび太のつきはなした口調も良かったし、視聴者100人プレゼントの冗談抜きに欲しくならないタワシストラップをいらないと笑うしずちゃんの冷え冷えとした口調も最高だった。宣伝にまったくならないことが冗談アイテムの宣伝として完成度が高すぎる。

*1:スネ夫がブランドをたちあげているというアニメオリジナル設定を忘れていないところが良い。 『ドラえもん』町内突破大作戦/コーディネートはスネカパで - 法華狼の日記

*2:hokke-ookami.hatenablog.com

*3:https://ray.co.jp/works/607/

トランス女性が優勝したと話題の自転車競技は、最初からトランスジェンダーにひらかれた部門

ロンドンでおこなわれた自転車競技で、まず現地で差別的な反発があり、それが日本にもちこまれて注目を集めているようだ。


ロンドンで開催されたサイクリングレース、自称トランス女性(身体男性)が1位と2位を独占し、勝利のキスを見せつけた。

一方、3位の女性選手は幼児を腕に。

まさにジェンダーイデオロギーの縮図と話題。

現時点で約1万7千のいいねを集めており、リプライや引用リツイートも同調する意見がならんでいる。


すでにロイターによるファクトチェックがおこなわれ、最初からトランスジェンダーも参加できるよう定められた部門と指摘されている。
www.reuters.com
その背景について説明する文章を、文中のリンクを排しつつ、google翻訳を手直しせず併記して引用しよう。

The posts are lacking in context, however. The photograph showed the winners of the ThunderCrit “Lightning Category” race, organised by the North London ThunderCats Black Metal Bicycle Club (here).

The “Lightning Category” race is open to cis-women as well as “non-binary people whose physical performance aligns with cis-women” and “trans men and women whose physical performance aligns most closely with cis-women” (here).

Meanwhile, the “Thunder Category” race is designated to those who are cis-male, “non-binary people whose physical performance aligns most with cis-men" and “trans men and women whose physical performance aligns most closely with cis-men" (here).
ただし、投稿にはコンテキストが不足しています。写真は、ノースロンドンサンダーキャッツブラックメタル自転車クラブ(こちら)が主催するサンダークリット「ライトニングカテゴリー」レースの優勝者を示しています。

「ライトニングカテゴリー」のレースは、シスの女性だけでなく、「身体的パフォーマンスがシスの女性と一致する非バイナリーの人々」と「身体のパフォーマンスがシスの女性と最も密接に一致するトランスジェンダーの男性と女性」(ここ)に開かれています。

一方、「サンダーカテゴリー」のレースは、シス男性、「身体能力がシス男性と最も一致する非バイナリーの人々」、「トランス男性と女性の身体能力がシス男性と最も一致する」の人々に指定されています。 (ここ)。

被害者のように位置づけられている3位入賞の競技者が、実際は競った相手をたたえるツイートをしていることも紹介されている。

The contestant who placed third and was seen in the photo holding a child said on Twitter: “Thanks for your concern, but I am delighted with my podium, super proud to be part of the team that organizes such an inclusive and exciting event, and proud to race with such awesome competitors” (here).


3位で子供を抱いた写真に写っている競技者はツイッターで次のように述べています。そのような素晴らしい競争相手と競争することを誇りに思います」(ここ)。

昨日サンダークリットで表彰台を獲得したことについてメッセージを送ってくださった皆さん、ご心配をおかけして申し訳ありませんが、このような包括的でエキサイティングなイベントを主催するチームの一員であることを非常に誇りに思い、このような素晴らしい競争相手と競争できることを誇りに思います。
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実は冒頭でツイートを引用した「🇺🇸Blah🔥Come and take it🔥@yousayblah」氏は、ぶらさげたツイートでトランスジェンダーにひらかれた競技とは説明している。


主催者は現代ジェンダー観に合わせ男女枠を廃止。

しかし「サンダー」(男性と男性に近い身体能力のノンバイナリ&トランス男女)、「ライトニング」(女性と女性に近い以下同上)と枠の名前を変えただけ。

しかもノンバイナリとトランスは自己申告制。当然皆女性枠で出場。
https://thundercrit.com/race-categories/

わたしは「トランスジェンダーにはトランス枠を設けるべき」というのに反対。

それは社会が「性自認」という妄想を肯定することになる。

自分を肥満と信じる痩せた拒食症の「肥満自認」も、盗聴されていると感じる統合失調症の「違和感」も社会は肯定しないのに、なぜ性自認は扱いを変えるのか。

ただし上記で引用したように、トランスジェンダーのみが出場できる枠をつくることも否定している。性自認という概念を全否定するために。


しかし現在の日本のインターネットでは、おそらく性自認にあわせた性転換手術や戸籍変更などは受けいれられつつ、優遇されることへの不公平感のみが重視されやすいのだろう。
「🇺🇸Blah🔥Come and take it🔥@yousayblah」氏の最初のツイートばかりが匿名掲示板やまとめブログにきりとられ、女性競技にトランス女性が出場したと単純化されて拡散されている。
b.hatena.ne.jp


また、引用リツイートしている何人かの著名人も、やはり最初からトランスジェンダーもふくめた枠組みの部門と気づかずに論評しているようだ。


こんなの間違ってる
これ程女性が侮蔑され攻撃されることはない
自由ではなく攻撃
彼らは、”彼ら”と呼ぼう
彼らは、社会を壊すために使われている武器


3位の女性選手、不平を口にすることはできない。なぜなら口にした瞬間に差別者認定され、パージされてしまうからだ。彼女は子供を抱いて登場することで、トランス女性と女性は違う存在であることを示そうとしているかのようだ。無言の抗議だ。心が痛む。


女子スポーツが絶滅の危機に瀕してる。


スポーツは人間の運動能力を競うもの。しかし肉体が女性の人はなかなか人間のトップレベルには行けない。だから女子部門を作った。肉体男性には女子部門に出る資格はない。心が女とか男で分けられているものでは元々ないからだ。今後は全てのスポーツは人間部門と肉体女子部門にするべきだろう。


「男女」ではなく「XX/XY」で分けるべきじゃないかなぁ。

これは単なる言葉の言い換えじゃない。性自認その他の要素を一切無視した「遺伝子による身体の違いのみに基づく分類」という事。

その上でロッカールームの区別などを導入すればいい。

那覇氏のような保守派はともかく、何人かの「表現」関係者が入っていることには少し悩む。
葛西氏のみ、おそらくトランスジェンダーが異性のシスジェンダーと望まず近づけられた場合の性加害について考慮する違いがあるものの*1、やはり競技の背景は確認できていない。
被差別者を物語の素材として利用することは、必ずしも現実の差別に向きあうことにはつながらない。つながることもある、と信じたいところだが……

*1:ホルモン量ではなく染色体をもちだすところなどの違和感もあるが。

そろそろ韓国の映画やドラマの躍進も頭打ちかな、と感じてしまった世論調査

日韓両国で世界的に人気なのはどちらか、日韓の各世代に質問した世論調査を読売新聞が報じていた。
www.yomiuri.co.jp
保守派でも韓国の映像作品には好意的に言及することが以前からあるので、調査内容もそれを報じる筆致も意外性はない。
hokke-ookami.hatenablog.com
日本側の意識については木村幹氏が「韓国の発展を認めたくないという複雑な感情が生まれている。高齢層の無回答の多さもその表れではないか」とコメントしている。
不思議なのは日本の30代で上下の世代よりも日本の優位性を感じる傾向があること。日本では70代以上と同じく日本の優位性を感じる世代であり、その結果として全体でぎりぎり日本の優位性を感じる結果となっている。
愛国心のような要素が30代で最もかかわるのならば、両国のグラフは反転したようなかたちをとるだろう。記事にもその分析が見あたらない。
一方で韓国は、全世代で韓国の優位性を感じているが、若いほど自国が世界進出している意識があるわけでもない。40代をピークにして少しずつ日本にも優位性を感じるようになり、最も若い18歳から29歳までが最も日本の優位性を感じている。


また、この世論調査は実際にどちらがどれほど優位性があるかという統計とはまた別問題という留意は必要だろう。はてなブックマークではid:wideangle氏が下記のようにコメントしている。
「JポップよりKポップ」日韓両国とも多数派、日本の70歳以上は「認めたくない」?…日韓世論調査

wideangle 韓国のナショナリズムがだいぶ強め、と読めるんじゃないか? これ……

どちらがどれほど実際の優位性があるかと比べる必要はあるが、たしかに仮説としては充分に成立する。
たとえば評価こそ内外で高い韓国映画だが、輸出総額は日本よりずっと劣っているという調査も見つけた。ほぼ日本が右肩上がりな一方、上下する韓国はピークの2005年で日本を少し抜いただけ。
filmination.jp
そうでなくても、一年前までは日本の映画界だけでなく韓国の映画界においても自国の状況への批判もよく見たし、だからこそ両国の映画が進歩していくだろうとも期待していた。
hokke-ookami.hatenablog.com

それらの批判の妥当性は個別に論じられるべきだとして、そのような声があげられる環境そのものの健全さを思わずにいられない。

しかし全世代において優位性を感じるようになった韓国で、進歩しなければならないという意識がたもてるだろうか。頂点にのぼったと感じた後は、もう降りていくしかできない。

『AIKa ZERO』

世界各地が水没した近未来。19歳になった皇藍華に、旧友から不思議な依頼がくる。とある女子高に怪しげな動きがあるのだという。さっそく潜入調査をする皇に、少女たちの魔の手がせまる……


2009年に全3巻で発売されたOVA。今はなき制作会社スタジオファンタジアのオリジナルシリーズから、成人主人公の1作目と、その学生時代を描いた2作目の中間にあたる出来事が描かれた。

シリーズ1作目からキャラクターデザインを担当した山内則康が、今回は初監督も同時につとめた。現時点で唯一の監督作品でもある。


大人びた色気を劇画などではなくアニメのファン層に受けるキャラクターデザインで珍しく成立させたのが、シリーズ1作目の『Aika』だった。こぎみよい娯楽作品として評価も高かった。

しかし山内則康の絵柄が、以降は『ナジカ電撃作戦』、『ストラトス・フォー』、シリーズ前日譚の『AIKa R-16:VIRGIN MISSION』とキャラクター設定もあって幼く簡素化が進み、独自性と魅力がうすれていった。

しかし今作でようやく第1作との中間くらいに頭身をあげ、瞳も小さく、ぐっと大人びたキャラデにもどした。やはりB級アクションで健康的な堂々とした色気を見せるなら、今回の19歳以上の年齢にひきあげるべきだと感じた。
前2作が海を舞台にしたことから、変化をつけるため女学園を舞台に。前作『R-16』でもライトな百合らしさがあったが、今回はさらに耽美な百合色が強い。触手が生えた少女が学園を性的に支配する展開に某小説を思い出したり*1
全編メカ描写が手描き作画というのも発売時期からすると珍しい。ブラシを活用したグラデーションのついた質感もいいし、メカそのものの重量感もよく表現されている。『R-16』の3DCGメカ描写が情報量がなくて薄っぺらかったことの反省だろうか。
ブックレットのPDと監督の対談によると、スタジオファンタジア初のBlu-ray媒体ということで、混乱があったという。しかしそれに応えられるだけの絵作りが全編できていて、今のところシリーズ最終作にしてファンタジア元請け最終作だが、有終の美を飾れたのではないだろうか。

*1:ネタバレになるので、Amazonへのリンクで紹介しておく。