法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『姑獲鳥の夏』

昭和27年の東京。産婦人科医の密室から医師が忽然と消えて、残された妻は一年以上も妊娠しつづけていた。
それを聞いた小説家の関口は知人を助けるため、名探偵とともに現場に向かって謎解きをしようとしたが……


京極夏彦のデビュー作を2005年に実写化したミステリ映画。『ウルトラマン』シリーズの特異な演出で知られる実相寺昭雄が監督した。

謎解きミステリとして見ると、映画が折り返しになってすぐ解決編がはじまる構成が珍しい。前半に散りばめた伏線は少なく、名探偵の長口上で説き伏せるように説明していく。
ひたすら衒学的な会話がつづくとダレかねない映画において、事件の解決という興味に衒学をかさねる構成は、意外と悪くないと思った。


また、眩暈坂の映像にすごいロケハンと思っていたら、DVDのメイキングを見てオープンセットと知って驚愕した。ちゃんと坂を作って塀にうねりをつけ、奥の建物まで建てて空間の広がりがある。横浜までロケハンに行かなくてもいいといったことをメイキングでスタッフらがやりとりしていた。
病棟もただのハリボテではなく、屋上に人間が立てて、もみあう場面を演じられるほど強固。原作者がメイキングで屋上に立ってコメントしているように、日本映画ではなかなかない大作感がある。
最後の炎上はかなり巨大なミニチュアを作っているのに*1、初見ではけっこうチャチに感じられて残念だったが*2、ひさしぶりに見ると舞台劇的な世界観には合っているかもしれない。廃墟となった病棟を映すエンドロールが、ちっぽけさを意図的と感じさせる。
俳優は芸人などもふくめて全体的に達者。関口がちゃんと猿顔っぽい髪型で、意外と原作を尊重している。水木しげる役で原作者も出ているが、わりとそれらしく演じられていた。日常芝居までならともかく、笑い声に違和感がない素人は珍しい。
照明をつかった舞台劇的な演出も、人の心象が視覚に影響をおよぼす物語にあっている。ただ関口の見る姑獲鳥の幻覚など、実相寺演出の観念的な描写は、全体的に作り物くさくて時代遅れ。どちらかといえば奇をてらった構図や部屋をまたぐカメラ移動など、近年の日本映画では手間がかかるため避ける演出を迷わずやって、そこそこ結果を出しているところが良かった。

*1:オープンセットを燃やさないのは消防法の制約か、そもそも燃えることを意図したセットに作ってなかったのか。

*2:炎の大きさは演出意図だとして、窓ガラスの奥が空っぽに見えるのが行灯っぽさを生んでいる。多用される外観描写はオープンセットの光量もあって見ごたえあるのだが。

『世界まる見え!テレビ特捜部』ハラハラドキドキが止まんない!ギリギリスペシャル

今回の国境はいつもの税関だけでなく、沿岸警備隊も紹介。巡視船やヘリコプターで密入国船を追いまわし、ゆれるヘリコプターからピンポイントでエンジンを狙撃したりする。捕り物劇としてサスペンスフルな映像ではあった。


ロシアで25年前につくられた家族4人のTV局メトロノーム3。くわしくは説明されなかったが、ソ連崩壊後の困難のなかで発展への希望をこめた個人事業だったのだろう。
かつては世界を変えるような夢をもっていたが、現在は地域に密着してクレームを役所につなぐような番組で人気を集めている。行政にうったえることで状況を変えることを助けることは、メディアのありかたとして日本より原理的に正しい一面があるように思えた。
もちろん現在のロシアで公的機関と全面的に対立するわけでもなく、村の警官たちの顔をおぼえてもらう番組を放送したりも。
ドキュメンタリの終了後は、ビルマ軍事独裁政権を逃れて田舎から放送をつづけるTV局が紹介された。


最後はボリビアのモロコカラ地区にある鉱山で働くシングルマザーに密着。
せまい坑道を手作業で、泥まみれになって鉱石をほりだしていく。すでに銀はほとんどとりつくし、見つかるのは1/60の価値しかない錫ばかり。えられる収入は平均の半分以下。コカの葉をかむことで疲れを癒し、休日で街に出ても子供たちのための教科書を安く買うためコピーを購入する。
友人は坑道に入るかわりに積みあげられた砕石をトンカチで割っていき、鉱石が残っていないかを調べるが、半日以上働いて手をケガしたりしながら収入はさらに低い。
スタジオで語られた後日談として、ドキュメンタリを見た多くの人々から支援を受けて、現在は都会で鶏を売って生活し、孫と会う時間などもできているという。善意で家族が救われたこと自体は素晴らしい。しかしよく考えると、ひとりで山のような瓦礫をひとつひとつ割って鉱石をさがしていた知人は、いったいどうなったのだろうか。
子供をかかえた独身女性が危険な鉱山でしか稼げないことも問題だし、労働に見あった収入でないことも問題だ。さらにドキュメンタリのフレームの外にも、同じような立場におかれた人々は、きっとたくさんいる。
社会構造を変えなければ、本当に救ったとはいえない。

『トロピカル~ジュ!プリキュア』第28話 文化祭! 力あわせて、あおぞらメイク!

文化祭でトロピカる部はメイク教室を開催することに。安い予算でメイクをおこなう方法を考え、ドレッサーは自作することに。
そして当日、夏海や滝沢がクラスや取材でいそがしくなった時、裏方にてっしていた一之瀬がメイク教室をはじめる……


吉野弘幸脚本、門由利子演出。美馬健二作画監督で、やや全体的に頭身が高め。
騒々しく楽しい文化祭エピソードで、後半じっくり一之瀬ひとりの鬱屈を描いた構成がおもしろかった。この作品には珍しい情感を描いているし、過去も現在も仲間にかこまれながら孤独に歩んでいる一之瀬というキャラクターが立ち上がっている。


一方で敵幹部の行動が今回も面白い。柔道部伝統のイカ焼き屋台にイカの着ぐるみがつかえず、カニの着ぐるみになったという前半の不思議なギャグが、チョンギーレの屋台協力につながってくるとは予想できなかった*1
思えば敵組織が人間の不幸や鬱屈を求めているのではなく、人間のやる気を求めているところが今作の独自性を生み出している。この敵組織は人間の前向きな姿を喜び、推奨しているのだ。
もちろん最終的に奪うことが前提だが、そこで人がやる気を失うことは副作用でしかなく、人を滅ぼそうとしたり傷つけることを喜んだりはしない。だから今回の協力も意図せず人助けしたと後悔したりせず、好きなだけ料理人として活躍して少年たち喜ばせただけ。
そして基本的に仕事は指示されしぶしぶやっているだけなので、負けてもあまり悔しがったりせず引きさがっていく……

*1:たぶん予想できた視聴者は多いだろうが。

『ドラえもん』細く長い友だち/落としものカムバックスプレー

次回予告の形式が少し変更され、一方ではなく両方のエピソードをナレーションで紹介。提供欄の背景映像とテロップで後半のエピソードを紹介する形式は変わらず。


「細く長い友だち」は、両親が北海道へ結婚祝いに出かけ、ドラえもんも数日間の用事があり、のび太がひとりで留守番することに。そこで助けてくれる秘密道具を出すと……
2010年に良好な作画演出でアニメ化*1した原作を再映像化。今回は善聡一郎コンテ、中本和樹作画監督。なぜか原画に高橋敦史。
ひと筆書きを秘密道具化したような原作に対して、こちらは実際にロープのような存在として秘密道具が描写される。鳥型になった時は反対側の羽もちゃんとあったり、傘型になった時は高速回転して雨をはじいたり。
さらに原作どおりドラえもんが用事をきりあげて帰ってくるオチを、雨にぬれながらタケコプターで飛んでくるようアレンジ。さらに玄関を開けると家が真っ暗という描写を足して、ドラえもん視点での不安感をあおる。
漫画という静止画表現をアニメに移しかえるために、原作のメタ的な表現こそ後退したものの、かわりにアニメとしてわかりやすい表現を足しており、媒体にあわせたアレンジとして納得できた。


「落としものカムバックスプレー」は、配達中のジャイアンに漫画をうばわれたのび太が、帰宅すると本棚の漫画もすべて母親に捨てられていた。かわいそうなのでドラえもんが秘密道具でフォローしていたが……
意外なことに2005年リニューアル以来、初めてのアニメ化。伊藤公志脚本に、つくしやまコンテ、田中薫作画監督
もともと単純なしっぺ返しパターンではなく、野比家と骨川家を対比して家族のありようを浮かびあがらせる構成の物語。今回のアニメでは冒頭にジャイアンの横暴を足して、秘密道具で配達がうまくできなくなる展開をアニメオリジナルで描く。
子供への叱咤のつもりで物を捨てて傷つけてしまい反省する野比母。自分の子供だけ自由にさせて他を傷つけた罰がふりかかる骨川母。横暴な子供が反撃されていたため仕事がとどこおっていた剛田母。三者三様の家族模様がおもしろい。
責任や罪の軽重、さらにその関係性が複雑なため教訓を読みとるのは難しいが、定番をずらしたことで深読みできる余地が生まれ、ドラマに味わい深さがある。

第二次安倍政権で学問的知見より閣議決定を優先して教科書に記述できるようにされた問題が、ついに動き出してしまった

維新の会と自民党が国会で予定調和のような質疑をおこない、従軍慰安婦と強制連行という歴史用語を無理やり否定したことがあった。
hokke-ookami.hatenablog.com
どうやらその閣議決定を根拠として文科省が説明会を開いて、教科書の記述まで書きかえられてしまったらしい。
www.jiji.com

 政府は4月、「従軍慰安婦」ではなく「慰安婦」、「強制連行」ではなく「徴用」を用いることが適切だとする答弁書閣議決定。これを受け、文科省は5月、教科書会社を対象に異例の説明会を開き、6月末までの訂正申請を求めていた。
 高校の地理歴史、公民などの検定基準は2014年に改定され、政府の統一見解を踏まえた記述とするよう定めている。

これらの政党が他の政党より表現の自由、学問や言論の自由を弾圧したがっていることが改めて痛感される。


思えば先日に自民党議員の山田宏氏が予備校のテキストを書きかえさせたばかり。こちらは日本政府の公式見解にすら反していた。

山田氏は書きかえさせた後も予備校の弾圧をねらう発言をしていたが、それにしても教科書までおよぶ動きが早すぎる。


少し前、国会で野党の限られた質問時間すべてが新型コロナ関連でないことが、ひどい態度であるかのように一部で非難されていた。
hokke-ookami.hatenablog.com
それを思えば、山田氏も文科省も新型コロナが蔓延している今やるべきことかと皮肉のひとつもいいたくなる。