法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 Season19』第5話 天上の棲家

土地の払い下げにまつわる収賄疑惑で、若手政治家が嫌がらせを受けていた。嫌がらせ対策にかりだされた特命係だが、杉下にはその家と因縁があった。
婿養子な若手政治家の義父もまた収賄疑惑にかけられ、自殺した過去があるというのだ。義父と違って若手政治家は疑惑を堂々と全否定するが……


斉藤陽子脚本で、政治家一族という階級に踊らされる男と、呪われた女の歴史を描いていく。
総理がらみで土地を格安にはらいさげる疑惑や、匿名の告発を報じるジャーナリズムなど*1、導入こそ森友学園を思い出させるが、物語の本筋はそこにはない。収賄疑惑は中盤で確定し、出番を終えたジャーナリストは後半では活躍しない。「忖度」された総理も追及の対象にはならない。
真相は最も怪しくて関係者へ権力をふるえる人物が全ての黒幕という単純さで、謎解きの面白味こそなかったが、その黒幕の情念に満ちた存在感はなかなかドラマとして見ごたえあった*2
政治家一族らしい屋敷のロケーションと、階段をのぼった2階で変死がくりかえされるシチュエーションで、下界から隔絶した論理で起きた事件ということが位置関係で演出されたことも印象的。


ただ、収賄の音声や映像が公開されたことで若手政治家が決定的に追いつめられるのだが、甘利明氏が経済再生相を辞任しつつも議員の座にとどまっている現在を思うと、もう一押ししないと現代日本ではリアルではないかな、とは思った。報道や野党の追求では足りず、検察が動いて政党が切り捨てないと、開きなおるだけで追及をやりすごせてしまう。真犯人の立場からすると、一押しする展開そのもので意外性も表現できたと思うのだが。
逆に、疑惑を報じようとするTV局らしきスタッフで、カメラマンがマスクをしているのは、ドラマには珍しい現代性だと思ったし、それでいて不自然に感じなかった。これなら普通にレギュラーからモブまでマスクを付けさせても意外と成立しそうだが、やはり俳優の顔を隠すことは避けたいのか……

*1:『相棒 season16』第8話 ドグマ - 法華狼の日記で左遷された検事の黒崎が、転身した記者として再登場。セミレギュラーだった女性記者の女優が自死した代役だろう。最近のこのシリーズには珍しい正義感と好人物が両立できているキャラクターで、そのためどんでん返しで犯人になる可能性も考えたが、今後セミレギュラーになるなら安心感ある存在になりそうだ。

*2:女性がしたたかで強くなったという会話の古臭いミソジニーは鼻についたが、真相に直結していそうでそうではなかったので、最終的には気にならなくなった。実際には昔から強かったし、その強さは環境に強いられたものだった。

米国大統領選を世帯収入で見ると、ドナルド・トランプ氏の支持が過半数を超えたのは10万ドル以上だけ

日本で年収600万ほどの未婚者と自称する匿名記事が、大統領選でジョー・バイデン氏が支持されたことを悲しんでいた。
日本人としてバイデン勝利を悲しむ

アメリカという国のありとあらゆるインテリや金持ちやエスタブリッシュメントがバイデンについた。

彼等はトランプを支持するような粗野で垢ぬけず育ちが悪く学歴の低い田舎者をまとめて卑しむ。

私は日本の貧しい田舎町から抜け出してなんとか今は年収600万程の仕事をしている。結婚はあきらめた。


ここにニューヨークタイムズ出口調査がある。もちろん調査に限界があることは最初に断りがあるが、興味深い情報であることに間違いない。
Election Exit Polls 2020 - The New York Times
トランプ氏とバイデン氏に投票した人々が*1、それぞれどのような集団に属するかを調べ、その比率を赤青の濃淡で視覚化した記事だ。もちろん有権者における各集団の比率も明記されている*2
たとえばトランプ氏を過半数支持した人種は白人だけ。白人の有権者比率は65%と高いが、そのトランプ支持率も57%にとどまる。他の人種のバイデン支持率は87%から58%と、より強い支持がある。
年齢は若いほどバイデン支持率が高く、トランプ支持率が過半数を超えているのは有権者22%の65歳以上だけ。


そこで大卒者*3は55%がバイデン支持だが、非大卒者は両者の支持が49%と拮抗している。人種ごとに見ると白人大卒者は両者の支持が49%と拮抗し、白人非大卒者は64%がトランプ支持で、非白人はどちらも70%以上がバイデン支持。どちらにしても非インテリや低学歴者がこぞってトランプ支持にまわっているようには見えない。
現在に結婚している人間*4は54%がトランプ支持で、独身者は57%がバイデン支持。結婚と年齢の相関もありそうだが、安定した家庭をきずいた生活保守者がトランプ支持にまわっていると感じられる。
そして世帯収入でいうと、有権者35%の5万ドル未満で57%がバイデン支持、38%の5万ドル以上10万ドル未満が56%バイデン支持、28%の10万ドル以上が54%トランプ支持という結果になっている。ちなみに有権者59%の正規労働者*5は50%がトランプ支持で、48パーセントのバイデン支持よりやや多い。
もちろん収入には人種や性別との相関なども背景にあるだろうが、金持ちやエスタブリッシュメントがバイデン支持にまわったという匿名記事の印象論は当てはまらない。


この出口調査から見えてくる典型的なトランプ支持者は、10万ドル以上の安定した世帯収入をもつ既婚者の白人という姿が浮かんでくる。こうなると学歴についても、非白人ほど切実に必要としない社会階層のようにも見えてくる。
もちろん上記の想定した典型に当てはまらない支持者はそれぞれに多数いるし*6、この出口調査ひとつで米国の有権者の全体像がわかるとも思わないが、最初の匿名記事はトランプ支持の実態をとらえているとはいいがたい。

*1:厳密には他にも立候補者がいるが。

*2:印象で誤解をまねかないよう、各集団の比率も面積で視覚化すれば、より良い記事になったと思う。

*3:「College graduate」

*4:ちなみに18歳以下の子供が家庭にいるかという問いでは、いてもいなくても少しバイデン支持率が高いが、子供がいるほうが支持率が高い。子供がいても自立する年齢なのか、逆に一人親家庭なのか、他の問いと比べてもよくわからない。

*5:「Do you work full-time for pay?」 また、現在の経済状況を4年前より良くなったと答えた集団や、国全体の経済状況が優れていると考える集団ほどトランプ支持が高いが、これは現職を支持する理由として理解できる。

*6:ひとつ興味深いのがBLM運動で、有権者の大多数でこそないものの過半数の57%が好ましいと答えつつ、その好ましいと答えた集団の20%がトランプ支持にまわっている。黒人が選挙に参加しづらい状況がBLM運動の一因であることから、米国全体のBLM運動支持はさらに高いことが想像できる。

『世界まる見え!テレビ特捜部』世界は予測不可能であふれてる! ラッキー・アンラッキースペシャル

今回はわかりやすい幸運不運の逆転劇を紹介。「禍福はあざなえる縄のごとし」ということわざを思い出すような、ラッキーとアンラッキーが表裏一体な出来事が楽しめた。


妹が強盗にあって、その被害と防犯の大切さについて韻をふむようにインタビューで答えた黒人青年。彼の映像はYOUTUBEで注目され、許可をえてサンプリングされたミュージックビデオが再生回数を稼ぎ、サンプリングした音楽集団から半分の収益を定期的に贈られているという。アントワン・ドッドソンという名前で検索すると、AFP通信がつたえたYOUTUBEのエイプリルフール企画で言及されていた。
ユーチューブが閉鎖、最優秀動画を選考 全てエープリルフール 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
他にニューヨークの片隅で料理店で働いていた女性が、ゴミ置き場の大判の絵画を気にいってアパートの自室へ持って帰った。ペッツィー・ギブソンという彼女が店の客に相談すると、タマヨという有名画家らしいと判明。しかしその絵は盗難被害にあっていて、大儲けどころか自分の物にはならず、拾得物と証明できなければ訴えられる危険があるという。一転して窮地に追いこまれた彼女だが、最終的に絵の鑑定を決断して、持ち主に返して謝礼金と、オークション会社から特別な手当てをもらった。


借主が諸事情で中身を手放したレンタル倉庫のオークションは、あまり中身を見せずに参加者の射幸心をあおる作り。メルカリなどのつつましい転売とは違った面白味があるが、沼に落ちている人も多そう。


最後に紹介されたのは、1983年にジンバブエのサバンナで捨てられていた赤子アビゲイルが、成長して実の両親を探しにいくドキュメンタリー。
病院で死産したはずの赤子だったことがDNA鑑定ではっきりしたかと思えば、しっかり調査すると少し離れた親類関係と判明。女性は実の母と目星をつけた相手にたのみこむが、明確な答えをえることはできなかった……
今度は女性が捨て子をひきとるというかたちでオチはついたが、こういうドキュメンタリーで完全な間違いでもなければ明確な真相もわからないという結末は珍しい。
しかし理由がなんであれ、赤子を捨てたのであれば、追及されるのを避けたい心情はあるだろうし、これはドキュメンタリーの根幹的な難しさをあらわにした回だったといえるかもしれない。

ハッシュタグ「トランプ大統領勝利」「日本の準備は整いました」は勝利宣言ではなく、あくまで勝利祈願だったらしいが

米国大統領選挙戦のさなか、ツイッターの日本語圏で下記のハッシュタグで大量のツイートが書かれていた。
#日本の準備は整いました hashtag on Twitter
#トランプ大統領勝利 hashtag on Twitter
ドナルド・トランプ氏の勝利宣言*1に呼応した熱狂的な動きに乗っていて、しかし各ツイート内の情報量が少なく、少なくない人々の困惑をまねいていた。
ツイッター、アメリカ大統領選挙結果の誤情報拡散回避のために対策強化(佐藤仁) - 個人 - Yahoo!ニュース

日本でも「#トランプ大統領勝利」というハッシュタグツイッターのトレンド入りしていたが、アメリカでもそれぞれの大統領候補の支持者が自分の応援する候補に優位な情報や応援コメントを拡散している。


このハッシュタグでのツイートを呼びかけていたのは、「mama QAJF 17@ma_ma_2880」氏。
ハッシュタグの参加者は匿名で陰謀論を流す人物「Q」の信奉者「Qアノン」*2と一部で予想されていたが、まさにその日本版「QArmyJapanFlynn」で活動する人物だ。

読んでのとおり、このハッシュタグは投票日以前の11月1日に呼びかけられた、あらかじめ決まった文言だ。つづくツイートで「勝利を願って」とも明言している。
もちろんQアノンだからトランプ勝利を確信していたろうし、敗北したならば不正と考えただろうが、時系列からしても勝利宣言ではなく、あくまで応援の言葉ととらえるべきだろう。
そうなると「日本の準備は整いました」という意味のわからない文言も、実際に何かを整えた宣言というより*3、応援の一環といえなくもない*4


こうしてQアノン自身が勝利祈願と考えていたハッシュタグだが、ツイッター日本語圏に蔓延したトランプ勝利観測と大差なく流れていった。
それがハッシュタグそのものより恐ろしい。
もしトランプ勝利宣言が勇み足のように出されなければ、あるいは宣言が日本語圏で批判的に見られていたなら、ハッシュタグはもっと孤立して浮いていただろう。
もちろんQアノン自体はどの立場からも批判されて遠ざけられがちだが、部分部分はそれほど特異な存在ではない。それが米国大統領選で可視化されてしまった。

*1:トランプ氏、「勝利」宣言 集計は法廷闘争も辞さず 写真5枚 国際ニュース:AFPBB News

*2:クリントンはすでに拘束された」などの主張が早々に破綻しながら信奉者を集め、日本国内でも広まっていった動きはこのページがくわしい。 explainednews.org 早々に陰謀論が破綻しながら信奉者を集める構造は、「Q」より先に日本で活動していた「余命三年時事日記」を思い出させる。d.hatena.ne.jp

*3:id:Nathannate氏の、はてなブログには珍しい保守派ブログが「事実を整える」というタイトルであることを連想したが、さすがに関係ないとは思う。ちなみにトランプ勝利宣言を受けてブログエントリをあげて、セルフブックマークで「勝負あったか。」とコメントしていた。[B!] トランプ大統領、勝利宣言をツイート - 事実を整える

*4:ただし宗教学者の堀江宗正氏は、スピリチュアリティの思考から未来が心の内で起きている宣言だと推測している。

 そうなるとQアノン自身の内心で応援と宣言がどこまで区別できているかはまた違う議論になるだろう。

『ドラえもん』カワムケルン/ユクスエカメラ

「カワムケルン」は、指につけることで色々な皮をむける秘密道具が登場。しかしドラえもんの指のない手ではつかえなかった。捨てるくらいならとのび太がもらうが……
永野たかひろ脚本、腰繁男コンテ演出のアニメオリジナルストーリー。原作ではあやとりエピソードくらいしか出てこないドラえもんの指がない問題を*1のび太が好きなように秘密道具をつかう導入として利用した。
設定を理解した瞬間から想像した人間の皮膚むきを、スネ夫の母親でやったかと想像させつつ、はがれたのは化粧だったことを視聴者に見せずに描写したところは良かった。しかしその展開につなげるための、楽器の内側に入った指輪をとりだす描写はなく、問題が放置されて終わったのが難。
それ以外の場面も、目についた外皮をむいていく描写がつづくだけで、展開が単調で意外性もない。最終的に家の壁までむかれて骨組みが露出するビジュアルなどは楽しかったが*2、物語には一工夫ほしかった。


「ユクスエカメラ」は、時間がたった後の写真をとる秘密道具が登場。それでドラえもんは傷みの早いどら焼きを選び、のび太は買い物でよいカボチャを選ぶが……
内海照子脚本、鳥羽明子コンテで、後期原作を2005年以降で初アニメ化。後半の未来の恋人の姿をすぐ見せない、ワンクッションを置いたカット構成は良かった。
前半まではディテールを少し変えつつ*3も原作に忠実だが、中盤からアニメオリジナル色が強くなる。
特に気になったのが、名も無きゲストキャラクターのドラマ。原作では男が女性の未来の姿を撮ってもらい、太ることを知って結婚をとりやめるが、のび太が男の禿げ姿をつきつけて相対化する。それが今回のアニメでは、自信のない男が自分の未来の姿を撮ってもらい、醜い禿げ姿に絶望するが、未来の女性の太った姿を見せられて心が軽くなって女性のもとへもどる。

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               し \:::
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どちらにしても美醜を相対化した展開ではあるが、ロマンティックに恋愛を描いたアニメに改変するのは、現代社会に早すぎると思ってしまった。アニメの展開でも、男側が結婚相手を選ぶ社会的な強者であることにかわりないし、相手が老いて醜くなることに安心するだけでは容貌という基準を捨てきれていない。男のルッキズムの身勝手さをつきつける原作のドライな風刺を、まだ今はそのまま映像化したほうがいいのではないか、と男の視聴者として思った。
一方、完全なアニメオリジナル展開でジャイ子ちゃんの十年後の写真を撮ったところは悪くなかった。顔が見えない未来の恋人らしき存在でひともんちゃくありつつ*4、未来は予測できないから素晴らしいとジャイ子ちゃんが語る。メッセージとしては平凡すぎるが、物語の根幹に対する批判として良いアクセントになっていた。

*1:じゃんけんで指のかわりに札を出す描写はある。ドラ顔じゃんけんが指がなくてもできるのは、考えてみると肉体に関係なくじゃんけんを楽しめる良さといえるだろう。

*2:入浴中の髪をおろしたしずちゃんも描写。風呂水は入浴剤をつかったような緑色で、見えるのは肩まで。しかし、のび太を電話で呼び出した理由が何だったか、ここも物語の動機が放置されてしまっている。

*3:放映時期を考慮してか、スイカをカボチャに変更。

*4:予想通り未来のジャイアンだったが。