法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 season16』第8話 ドグマ

杉下と冠城が街角で外来の昆虫を発見。それはアリに似た姿だが、刺すと強烈な痛みをもたらすジゴクバチだった。
さらに大量のジゴクバチに刺されてショック死した蝶収集家を発見したふたりは、中央アジアのテロに巻きこまれる……


今年に侵入が発見されたヒアリのニュースを思い出す導入から、南北対立をかかえる架空国家を発端とした復讐劇が始まる。
偶然にも前日に見たホラー映画を連想させる展開が興味深かった。先進国の収奪と、暴力で抵抗する現地という構図。さらに昆虫を用いた刑罰という文化まで共通している。
『グリーン・インフェルノ』 - 法華狼の日記
とはいえ今回はテロリストがあまり表には出てこず、あまりサスペンスを煽るような演出もしていない。次々に関係者が殺されていくが、対立をかかえた地域の両方へ武器を売ったという背景から、あまり同情をわかせない。蝶収集家に同情させるような設定も作れただろうが、現地人の信頼を利用して企業を引きこんだ存在でしかない。
そこで殺害をおこなった犯人像が見どころになるわけだが、普通なら予想できてしかるべきところ、意外な展開を中盤にはさむことで、うまく容疑の輪から外すことができていた*1。それでいて、関係者について語られる情報に真相につながる要素をおりこんでいるので、そこそこの納得感がある。時代の変化で奇妙な立ち位置になってしまった真犯人視点でドラマを作っても面白そうだ。


また、法を超えてでも植民地主義的な収奪へ抵抗しようとする物語は、先月に見て感心した『科捜研の女』の1エピソードを思い出させる。スタッフや設定も共有していた。
『科捜研の女 season17』File3 折り鶴が見た殺人 - 法華狼の日記

『相棒』でも「犯人はスズキ」等の印象的なエピソードを書いていた岩下悠子が脚本。軍事的な緊張が高まっている国として、『相棒』でおなじみのエルドビア共和国も出てくる。

同じ物語でも『相棒』ならば、正義の暴走を注意する老女の台詞が、より印象深くなったかもしれない。

しかし今回の杉下と冠城は超然としていて、同じく正義を暴走させがちな性格として関係者に共感しつつ、暴力を用いないという一線を主張する。
もちろん警察は組織として暴力装置であるし、杉下も事件に首をつっこむ時は手続きをやぶりがちではあろう。
しかし武器を向けられた状態で、あえて特命係の特殊性を見せつけることで、けっこう絵としての説得力はあった。

*1:杉下が「僕としたことが……!」という台詞を久々に聞いた。