法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『スター☆トゥインクルプリキュア』第19話 虹の星へ☆ブルーキャットのヒミツ!

新たなスターカラーペンをさがしに星奈たちは惑星レインボーへやってきた。そこは生命の気配がない荒野で、やっと見つけた人影は石像。
それでもペンを探しつづけた星奈は、意図せずホログラムで隠された洞窟を発見。そこには無数の宝が隠されていた……


村山功シリーズ構成の脚本で、ブルーキャットが怪盗をつづける動機から、アイワーンとの因縁まで一挙に説明。
スターカラーペンという共通の争奪対象で、すでにブルーキャットが確保していたところに残りの2勢力が集まって、さらに感知能力の高低でタイミングがズレるという流れも地味にていねい。きちんと手間ひまをかけて導いているから、制作者の都合でキャラクターが動かされているような無理を感じない。
アイワーンの惑星レインボーに対する過去の行動から、これまで以上に悪の科学者としての外道さが増しつつ、詰めの甘いマヌケなキャラクターは維持されるところも面白い。


それにしても、大人の視聴者なら新プリキュアと誰もが予想できるだろうキャラクターで、こういうズラしたどんでん返しが展開されるとは期待していなかった。
同じ猫型の宇宙人であることや目の色、敵組織内で距離感をもっているようなささいな言動、怪盗回で顔をあわせていなかったことからバケニャーンとブルーキャットが親類だという予想は見かけていたが。
前後回との連続性が高い今作らしく、記憶の限りでは矛盾もない。ちゃんと前々回*1に変装能力の完璧さを描写した伏線があるので納得感も高い。

『世にも奇妙な物語'19雨の特別編』

奇妙な味の短編ドラマを見せる、土曜プレミアム枠で恒例のオムニバスドラマ。
www.fujitv.co.jp
前回*1につづいて30分枠の短編5作だが、今回はタモリの登場するブリッジでも小さなドラマが展開。各編に呼応する台詞をタモリがゲストキャラクターへ投げかけて、最終的にゲストキャラクターも各編の主人公と同列の立場に組みこまれる。
特にすごい内容というわけでもないが、そこそこメタフィクションっぽさもあり、閉鎖環境サスペンスとしてもまとまっていたので、嫌いではない。


「さかさま少女のためのピアノソナタは、音楽コンクールに挑戦する青年たちが、間違えると二度とピアノを弾けなくなる楽譜に出会い、奇妙な顛末をむかえる。
ファンタジー設定で本格ミステリを展開する北山猛邦の『千年図書館』が原作だという。実際、楽譜を逆さにして弾くという講義で語られた豆知識が、伏線として作用するあたりはミステリっぽさを感じた。
また、すべてを音楽にかけた人生こそが呪いであり、呪われた楽譜がそれを中和するような展開も意外で面白かった。弾いている間に全てが静止する楽譜の設定も、映像作品として純粋に楽しい。
ただドラマオリジナルらしいオチは、蛇足でしかなかったと思う。無理にモヤモヤを残そうとして、むしろありきたりなオチになってしまうことがこのシリーズの悪癖だ*2


「しらず森」
は、夫と不仲になった女性が実家に戻り、かつてよく遊んだ神社の森へ息子をつれていったところ、神隠しにあってしまう……
ホラーっぽさを強調した前半から、ハートウォーミングな後半へと、ノスタルジックなドラマを展開。時空を超えるネタはベタだが、子供のころ埋めたタイムカプセルでSFっぽく見せる。
原作は未読だが、原作者の初めての短編だという。インタビュー*3によると「スコシフシギ」を意識したそうで、いわれてみると藤子F短編の『山寺グラフィティ』等に近いところがあるかな。
特に目を引く内容でもなかったが、安いVFXも粗の出ない短さで、このシリーズに期待される内容はあったかな。特殊メイクのような神主の風貌も印象的。


「永遠のヒーロー」は、怪人に対抗してヒーローが警察の一部署として活躍する世界の物語。ヒーローの家族とのコミュニケーション不和から、世界の真実が暴かれる……
トップ成績のヒーローとして郷ひろみが主演。撮影場所やヒーロースーツの造形は東映特撮っぽい。そこがメインの物語ではないし、技術力を上げている本家に比べると安っぽかったが、それなりにパロディとして楽しめた。
ヒーローの周囲に隠された真実も、押井守を連想させつつも、意外と本家のヒーロー特撮でもやりかねない内容。ただ30分枠で二重のどんでん返しが凝縮されて、不条理劇としてけっこうよくできている。
どんでん返しによってヒーローの意味が消えるのではなく、現実を虚構が支えるという構図が強化されていくところも、タイトルに象徴されるヒーローテーマのドラマとして、不覚にも感心した。


「大根侍」は、バスケ部の先輩に恋する女子マネージャーが、先輩が好きなブリ大根を作ってアピールしようとしたところ、侍に因縁をつけられる……
大根を刀とする侍が現代社会にそのままいて、鞘当てから女子マネージャーが決闘することになり、そのまま大根の剣術をおさめて戦いにいどむ。
シリーズで毎回一編はあるシュールギャグコメディ。大根を刀に見立てた殺陣を、ちゃんと説得力あるように描写できていたのは良かった。下手をすると「永遠のヒーロー」よりもアクションに見どころがある。
ただまあ展開は予想を一歩も出ないし、シリーズいつものリフレインオチなので、主演の浜辺美波*4の可愛さしか印象に残らなかったな……


「人間の種」は、プロポーズされながらひとりで仕事をつづける日々をつづけようとする女性のところに、人間のように育つ植物があらわれる……
シュールなようなホラーなような、位置づけの難しいファンタジー。奇妙な植物を育てる描写が、人間を育てる設定となって、そのまま家族を作ることのリハビリとなる。
そして植物の正体は主人公が失った母であり、母を幼子から育てることは主人公自身を育てなおすことに通じる。
このシリーズの近年の水準からすれば悪い内容ではないと思うが、ファンタジー設定で時間を超えて自分と家族の過去に向きあう物語が「しらず森」と丸かぶりしていて、ドラマとしての雰囲気も似通っている。
まったく新味のないエピソードをクライマックスにもってこられたことで、期待外れという印象を持たざるをえなかった。子供が地面に埋まっている序盤の描写などは悪くなかったのだが……

*1:『世にも奇妙な物語'18秋の特別編』 - 法華狼の日記

*2:前回でいえば「幽霊社員」。

*3:思い出は満たされないまま 乾緑郎|集英社 WEB文芸 RENZABURO レンザブロー

*4:実写版の『咲-Saki-』や『賭ケグルイ』の主演をつとめていて、奇矯な漫画的キャラクターを実写で成立するように演じられる女優という特性を活かした配役とはいえるか。

『ドラえもん』ネアンデルタール人を救え/のび太もたまには考える

今回の探偵団はドラえもんの変装描写。けっこうアニメオリジナルもしっかり拾っていて、いつものデザインがシュールに変化する楽しみが味わえた。


ネアンデルタール人を救え」は、絶滅したネアンデルタール人を救うため、のび太ドラえもんしずちゃんがタイムスリップ。そこでジャイアンそっくりのネアンデルタール人に出会う……
小林英造脚本によるアニメオリジナルストーリー。死者に花をたむけたり絵を描いたりするネアンデルタール人を心やさしき存在と位置づけ、ジャイアンに当てはめるアイデアが大勝利。さらに数で圧倒するホモサピエンススネ夫がひきいる集団と設定したことで、身体は小さくともネアンデルタール人を排除していった歴史がビジュアルで伝わってくる。日常の関係が逆転した情景そのものが楽しい。
そして新人類の少女として、のび太そっくりのキャラクターを用意。次回予告で見た時も驚いたが、睫毛が長くて前髪を切りそろえて、ちゃんと美少女に見える。その少女のふりをしてネアンデルタール人を奮起させようとするのび太も、これまでの女体化や女装ネタのなかでもトップクラスにかわいらしい。
手袋を足に着けたネアンデルタール人は秘密道具の使用方法がわからないのかと思いきや、そのままジャンプ力をいかして少女を助けようとしたり、本来の身体能力で野獣に立ちむかう。現在の知見を反映させたハッピーエンドを予感させるオチに、途中ののび太の失敗を加味した多段オチも良い。
科学的な興味とキャラクターパロディがうまく融合した、楽しいエピソードだった。


のび太もたまには考える」は、さまざまな能力を入力できる秘密道具が登場。勉強を始めるためマラソン選手の脚力で買い物をすませたのび太だが、秘密道具をさらに活用しようとして……
2009年に映像化*1された後期短編のリメイク。重要回をよく手がける鈴木洋平が脚本を担当。秘密道具のモチーフになったカセットテープは、2年前から世界的に再流行の兆しにあるという。
熱さめやらぬ「カセットテープ」のブーム再来、いまも販売本数は増加中|WIRED.jp
今回は3回PANを使ったり、絵を動かさず葛藤した状態のカットをやや長めにとったり、どことなく出崎演出を思わせた*2。他にも「強い人」のアクションを短いながらしっかり作画したり、ぐっと映像面で向上している。
原作のオチは、深く考えることすら秘密道具だよりという冷徹さがあった。対する今回のアニメ化では、よく考えて秘密道具を返した後、勉強を再開するところまでを描く。思えば今回の秘密道具は能力を補助するだけで、どう使うかは本人次第だ。

『ジョジョの奇妙な冒険』Adventure.3-銀の戦車&力

DIOのいるエジプトに向かった一行だが、飛行機が墜落して海面に不時着。通りがかった輸送船に逃げこむも、そこには人の気配がなかった……


まず後半から結末までOVA化された『ジョジョの奇妙な冒険』第3部を、あらためて前半をOVA化。

1993年にOVA化されたのは6巻分で各話40分。比べて2000年にOVA化されたのは7巻分で各話30分。1993年版でもいくつかの描写を削らざるをえなかったのに、戦う相手の数も多い2000年版は大きく構成を変える必要があった。
まずサブタイトルにも登場しないタワーオブグレーは、飛行機を墜落させただけで、本体も前話*1の結末にそれらしき人影が映るだけ。原作を知らなければスタンドの仕業ということすらわからない。さらにチャーター船で攻撃してきたダークブルームーンは完全に削除。
難破からではなく墜落から輸送船上で戦う展開となり、船上戦がつづくという原作のロードムービーらしさを排したかわりに、スピーディーでテンポが良くなっている。


そして、原作では香港で登場したポルナレフが、OVAでは輸送船上にひとりいる謎めいた男として登場。最初から敵ということが明確なので、そのまま戦いに移行して、サスペンスを弱めない。ストレングスの存在を隠すミスディレクションとしても効果をあげている。
ポルナレフを倒した後、輸送船そのものが敵スタンドのストレングスとわかっていく。ここはほとんど原作と同じ描写を、ていねいなメカ作画で充実したアクションシーンとして楽しませる。
そして承太郎たちが追いつめられたところで、起き上がったポルナレフが一刀両断という新展開。ポルナレフが仲間になったことを、原作よりたよれる存在として鮮烈に印象づける。


さらに、原作通りにポルナレフの復讐心が語られた結末で、第1巻*2から登場していたDIOの側近の美女が、その関係者だという驚愕の設定が明かされる。
いや、原作にも同じ立場の側近は登場していたのだが、恐ろしさや醜さとともに愛嬌も感じさせる小柄な老婆だったのだ。年齢的に主人公たちと対等な外見を与えて、さらに序盤からくりかえし登場場面を足すことで、2000年版で倒すべき中ボスとしての風格が生まれた。
なるほど、すでにラスボスのDIOを倒すエピソードまで作られた以上、前半までのOVA化にはそれなりに倒すべき存在感の敵を新たに作らなければならない。それを原作からアレンジして印象づけ、うまく関係性を当てはめた。
1993年版と比べて2000年版の評価は低いのだが、こうした最小限のアレンジを重ねて全体の構造を媒体にあわせた作品は嫌いではない。厳しい制限のなかで工夫して、それがけっこううまくいっていること自体に好感が持てるのだ。

『ジョジョの奇妙な冒険』Adventure.2-法皇の緑-

祖父と仲間との戦いによって牢屋を出た空条承太郎は、ひさしぶりに学生らしく登校する。そこに群がってきた女子学生が、不審な行動をとりはじめ……


OVA第2巻は、DIOの尖兵として襲ってきた花京院との対決と救出までを30分かけて描く。2014年のTVアニメ版では対決の決着までしか描かなかったので、やや展開は早め。

物語はほとんど原作通りだが、DIOに操られた花京院の粘着質な奇行を大きく削って、キッチュな印象が弱まっている。保健室にも行かず、原作の養護教員の役割りを冒頭で登場した女子学生のひとりが担当。戦いの舞台は、石段上の鳥居を通った竹林のなかで、つまりハイエロファントグリーンの「緑」をアニメとして強調している。
ホラーエピソードとしての味わいは後退しているが、アクションは当時のOVAなりに良く動いている。尺が少ない中で承太郎が命がけで花京院の洗脳を解く描写もていねいで、少年漫画のアニメ化としては順当なところだろう。