法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ジョジョの奇妙な冒険』Adventure 1 悪霊

日本において、牢屋に自ら入っている青年。そこにたずねてくる祖父。青年は自身に悪霊がついていると語りだす。
その悪霊こそスタンドと呼ばれる生命エネルギーの化身であり、因縁の敵の復活に呼応して発現したのだった……


2000年に二村秀樹と古瀬登の共同監督体制で展開したOVAシリーズ。北久保弘之監督による1993年のシリーズよりも評価が低いが、けっこう見どころはある。

さまざまな意図で中盤から最終話までがアニメ化された『ジョジョの奇妙な冒険 Part3 スターダストクルセイダース』を、あらためて発端から中盤までをアニメ化。
当時はまだ珍しいデジタル制作だが、現在に鑑賞しても目に痛くない色彩設計に感心する。OPの海中表現もフィルターやレンズを使っていて、けっこう当時としては意欲的な演出でありながら成功している。
作画も濃厚なキャラクターデザインがそのまま動き、マジシャンズレッドの火炎エフェクト作画も繊細。


原作からのアレンジは最小限だが、まだ設定が固まりきっていなかったところを、微妙に矛盾を消している。わかりやすい例として、スタープラチナは近距離までしか動けないという完成設定にあわせて、遠くから奪った物品が牢屋内にある原作描写は削除。
敵首領DIOの側近として若い美女を登場させて、タロットを使ってスタンドの格を占うのも地味にいい。原作では主人公側がタロットで名前をつけていたはずなのに、敵もタロットからスタンドの名前をつけているという設定が、微妙に齟齬を感じさせたものだ。


また、演出とテクニカルスーパーバイザーとして小寺勝之がクレジット。そういえば直後の監督作品『Sci-Fi HARRY』も同じA.P.P.P.制作だ。
しかしテクニカルスーパーバイザーとは何の仕事をしたのだろうか。

『世界まる見え!テレビ特捜部』本当にスゴイものからちょっと笑えるものまで神業SP

現在日本人で最多のギネス記録をもつというチェリー吉武がスタジオに登場。元体操のお兄さんを初め、ゲストキャラクターが失敗した挑戦を、見事に自分の記録更新というかたちで達成。


「エベレスト・レスキュー」
は、登山者の救助に向かうヘリコプター隊に密着。高峰ゆえに空気が薄く、ヘリコプターの揚力ははたらかないし、パイロットは酸素が足りなければ補給のためのチューブを鼻にさしこむ。
そんな環境で吹雪によってテントに飛ばされた20人ほどの登山隊の捜索から発見、救助までの模様をていねいに映す。機体の各所や隊員にカメラをつけて*1、迫真のディテールで見せていく。
いつものような情報を圧縮して説明するドキュメンタリーと違って、光景そのものを見せていくドキュメンタリーだが、これはこれで興味深かった。
「筋肉自慢「ストロングマン」になりたい青年」は、ひっこみ思案だが見世物小屋の怪力男にあこがれて鉄を曲げることを好むようになった青年に密着。
登場する師匠や伝説の怪力男が、ちゃんと客の視線を考えてパフォーマンスに徹しているのに、青年は鉄を曲げることを最優先して客に背を向け、せっかく曲げた鉄を皆に見せつけることもしない。客よりも鉄に向きあいたいと語る青年の姿がおかしいが、ちょっとオタク気質なところに親近感がわくし、ある意味では求道者のようでもある。
すたれつつある怪力男「ストロングマン」の興行だが、それが珍しく集結するイベントが青年の初興行。怪力を見せつけていく他のストロングマンと違って、客に応援されながら鉄曲げに挑戦するというスタイルは、なるほど個性的だし青年の性格に合っていた。
「死の危険を伴う顔面移植手術」は、銃の誤射で顔下半分を吹き飛ばしてしまった老人に、カナダの天才外科医が顔面移植手術を提案する。
数年前にもほとんど同じシチュエーションの顔面移植手術を紹介していたが*2、先端技術をただ賞揚するだけの前回と違って、拒否反応のリスクなどもていねいに説明。中心となる外科医は顔面移植手術の終盤に別の手術を求められて別の場所へ3時間行ったりと、かなりの凄腕でありつつもマッドな印象はまったくなく、患者の意思を最優先しようとする。
30時間以上におよぶ手術室でのさまざまな判断も見せて、患者が生活を回復していく後日の姿を見せて終わり。手術の物珍しさにたよらず、医術ではなく医療をあつかったドキュメンタリーという感じの地味な良さがあった。

*1:終盤の救助で機体を軽くするために窓や座席を外した描写から考えても、かなり小型のカメラだろう。

*2:『世界まる見え!テレビ特捜部』こんなスゴイことやってたのか! 世界のプロフェッショナルSP! - 法華狼の日記

『スター☆トゥインクルプリキュア』第18話 つかめ新連載☆お母さんのまんが道!

70万部の月刊あさがおで、星奈母の初連載が決まりそうだという。しかし手は早いもののネタ出しに苦労する母を見かねて、星奈ひかるたちは手伝うことに決めたが……


いかにも少女漫画なイメージの恋愛至上主義を売れるからと求める担当編集に対して、娘を楽しませようとした初心にかえった星奈母は現代ファンタジー路線を提出する。
どちらが不正解というわけではないはずだが、母親も見ることを想定した女児向けアニメとして星奈母をロールモデルにするなら、後者を選ぶのは良くも悪くも予定調和ではあるか。
今作そのものがSFファンタジー路線であり、娘とその友人のふるまいから母親がかんづいてネタにしたあたりが、作家らしい鋭敏さの表現ともいえるだろうし。


ただ、こういうストーリーなら作中作もそれなりに面白そうであってほしい。売れ線なだけで作者が乗り気ではない作品とはいえ、医者の恋愛漫画はあまりにもつまらなさそうに見えて、それで良いと考えた担当編集がまったく信用できなくなるのは困りもの。
最終的に否定される作中作であっても、それなりに面白そうなレベルにはしていたのが、価値観などに感心できないところが多すぎた『バクマン。』の数少ない美点だった。
男装コスプレの天宮と、同じくコスプレした香久矢というラブシーンのモデル風景が印象的すぎて、いつものプリキュアをアレンジしたようなファンタジー漫画が相対的にあまり面白くなさそうなのも難。ラブシーンのモデル風景をファンタジー漫画にも参照すれば、途中の努力も回り道なりに意味があったという位置づけができるのでは。


それにしても、娘がいる年齢の女性で、漫画家をつづけるため初連載をねらうキャラクターは、どれくらいリアルなのだろうか。
祖父母とともに持ち家暮らしなので夢を追いつづけやすい設定とは理解する。少女漫画はたしかに週刊誌が少なくて、そこそこ有名な漫画家でも連作短編や短期連載が意外と多い印象もある。
しかし私は実際の漫画家事情を知らないので、どれくらいデフォルメされた描写なのかつかみづらい。星奈母の絵柄は『スレイヤーズ!』の挿絵で知られるあらいずみるいのような古さで、SFやファンタジーを愛好している設定ともども、時代遅れな漫画家像として完成はしているが……そもそも少女漫画誌ではなく、もう少し高年齢向けの青年誌などでの連載をねらうべきではないのか、と思ったりもした。そういう“現実主義”を選ばないのが今回の物語の結論ではあるが。

『センコロール』

一見すると平凡な日本の社会で、さまざまな機械や建物に擬態する巨大生物センコを少年が使役して戦い、ひょんなことから少女が巻きこまれる。


東京都のアニメクリエイター支援企画「動画革命東京」に援助され、2009年に作られたオリジナル短編アニメ。

センコロール (完全生産限定版) [DVD]

センコロール (完全生産限定版) [DVD]

支援企画はすでに消滅したが、続編『センコロール2』制作の動きはつづいていて、ちょうど十年目の今月末に1作目と2作目をあわせた『センコロール コネクト』が上映予定。
CENCOROLL CONNECT -センコロール コネクト- 6.29 ROADSHOW


漫画家の宇木敦哉が監督脚本作画まで担当。いかにも『アフタヌーン』の四季賞に輝いた作家らしい、説明を排して異形の日常を切りとったような作りの物語。作画も30分をとおしてていねいで、各部署には他のスタッフも入っているとはいえ、すみずみまで個人のフィルムとして成立させている。
アニメーションとして意外と楽しめる部分が多い。センコのメタモルフォーゼは作画の見せ場として散りばめられているし、そうして擬態した機械の意外なところからセンコが口を開けたり*1する異化効果も楽しめる。
あたかも夏のようにコントラストのくっきりした背景美術や、リアルな風景にまぎれこむデザイン化された怪物たちの戦いなどから、細田守監督版の『デジモンアドベンチャー』を連想したりも。後にシリーズ後日談の『デジモンアドベンチャー tri.』で宇木敦哉がキャラクターデザインに抜擢されたのもむべなるかな。


ただいかんせん、物語が完全に投げっぱなしで終わっているのはやはり問題というか、公的補助を受けているのに良くも悪くも自主制作アニメらしい。
少女がセンコの使役者となって危機を脱する展開から終わるのだが、そこから物語を閉じるための手続きをふまずにエンドロールが始まってしまう。もともとセンコを使役していた少年がダウナーで、あまり自身のことを語らないため、物語のテンションが平板なことも、ドラマとしての薄さを感じさせてしまう。
これではDVDのブックレットで声優が続編を求めるコメントを出しているのも当然だろう。それがようやくかなった今となっては、また違った気分で鑑賞もできるのだが……

*1:アフタヌーン』に連載されていた『寄生獣』を連想させる描写。

『ドラえもん』トランポリンゲン/シャボン玉宅配便

「トランポリンゲン」は、ふきつけた対象がトランポリンのような弾力を持つ秘密道具が登場。のび太はそれでジャイアンの暴力をかわし、東京タワーまで遊びに行くが……
原作者の没後にカラー作品集に収録された短編を、2005年のリニューアルから初めてアニメ化。人体にふきつけて衝撃に耐えて高く飛びあがるアイデアまでは原作通り。
遊ぶのが数階建てのビル止まりだった原作から逸脱するのは、東京タワーを目指すあたりから。子どもの視聴者はちょうど十年前ごろから建造されたスカイツリーになじんでいそうなものだが、まだサブカルチャーのアイコンとしては東京タワーが強いのか。
身近な存在が異常な動きを生みだして、画面を縦横無尽に飛び回る秘密道具の設定は、いかにもアニメーションに向いている。しかし残念ながらトランポリン化した部分がまったく伸縮せず、赤紫色の土煙がたつという記号で処理されただけ。放物線の動きも等速運動のようで現実味がない。遠くまで移動する場面も背景動画などは使わず、カメラワークが説明的で単調*1。はずむのにあわせて、デジタル技術で背景美術を歪ませたりすれば、もっと面白い絵になったと思うのだが……


「シャボン玉宅配便」は、忘れた宿題をとどけるための秘密道具が登場。その秘密道具で作ったシャボン玉は風に流されても元の進路に戻り、送り先にとどくまで割れることはないが……
清水東脚本によるアニメオリジナルストーリー。コンテが腰繁男ということもあり、どことなく2017年リニューアル以前の雰囲気を感じた。
普通に考えればどこでもドアなど、もっと便利な秘密道具が無数にある。そのため秘密道具を出した発端に説得力を感じなかった。しずちゃんへ送る時、のび太が不安がって後をついていく本末転倒ぶりもふくめて、原作にもよくあるパターンではあるが……
しかし、ジャイアンの強奪から逃れるため、子供たちが独自の発送網を作りだす展開から面白くなってくる。子供だけの世界で郵便が再発明された情景は、意外なほど文明SFらしさがあった*2
もちろんジャイアンは運搬途中のシャボン玉を見つけ、発送網の妨害を始める。風に流される描写が先にあるので、虫取り網で捕まっても説明がつく。
最後にジャイアンの母が送られて事態を収拾するオチは予想できたが、発送網そのものに妨害をふせぐシステムを組みこんだと見れば、やはり文明SFのような味わいがある。

*1:絵コンテは木野雄。

*2:ただせっかくなら、シャボン液をわけあうことで子供たちひとりひとりが発送できる、という描写を明示しても良かったかもしれない。それならば今回の秘密道具でしかできない展開と明確になるし、シャボン液を使った商売などにも発展できる。