法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世にも奇妙な物語'19雨の特別編』

奇妙な味の短編ドラマを見せる、土曜プレミアム枠で恒例のオムニバスドラマ。
www.fujitv.co.jp
前回*1につづいて30分枠の短編5作だが、今回はタモリの登場するブリッジでも小さなドラマが展開。各編に呼応する台詞をタモリがゲストキャラクターへ投げかけて、最終的にゲストキャラクターも各編の主人公と同列の立場に組みこまれる。
特にすごい内容というわけでもないが、そこそこメタフィクションっぽさもあり、閉鎖環境サスペンスとしてもまとまっていたので、嫌いではない。


「さかさま少女のためのピアノソナタは、音楽コンクールに挑戦する青年たちが、間違えると二度とピアノを弾けなくなる楽譜に出会い、奇妙な顛末をむかえる。
ファンタジー設定で本格ミステリを展開する北山猛邦の『千年図書館』が原作だという。実際、楽譜を逆さにして弾くという講義で語られた豆知識が、伏線として作用するあたりはミステリっぽさを感じた。
また、すべてを音楽にかけた人生こそが呪いであり、呪われた楽譜がそれを中和するような展開も意外で面白かった。弾いている間に全てが静止する楽譜の設定も、映像作品として純粋に楽しい。
ただドラマオリジナルらしいオチは、蛇足でしかなかったと思う。無理にモヤモヤを残そうとして、むしろありきたりなオチになってしまうことがこのシリーズの悪癖だ*2


「しらず森」
は、夫と不仲になった女性が実家に戻り、かつてよく遊んだ神社の森へ息子をつれていったところ、神隠しにあってしまう……
ホラーっぽさを強調した前半から、ハートウォーミングな後半へと、ノスタルジックなドラマを展開。時空を超えるネタはベタだが、子供のころ埋めたタイムカプセルでSFっぽく見せる。
原作は未読だが、原作者の初めての短編だという。インタビュー*3によると「スコシフシギ」を意識したそうで、いわれてみると藤子F短編の『山寺グラフィティ』等に近いところがあるかな。
特に目を引く内容でもなかったが、安いVFXも粗の出ない短さで、このシリーズに期待される内容はあったかな。特殊メイクのような神主の風貌も印象的。


「永遠のヒーロー」は、怪人に対抗してヒーローが警察の一部署として活躍する世界の物語。ヒーローの家族とのコミュニケーション不和から、世界の真実が暴かれる……
トップ成績のヒーローとして郷ひろみが主演。撮影場所やヒーロースーツの造形は東映特撮っぽい。そこがメインの物語ではないし、技術力を上げている本家に比べると安っぽかったが、それなりにパロディとして楽しめた。
ヒーローの周囲に隠された真実も、押井守を連想させつつも、意外と本家のヒーロー特撮でもやりかねない内容。ただ30分枠で二重のどんでん返しが凝縮されて、不条理劇としてけっこうよくできている。
どんでん返しによってヒーローの意味が消えるのではなく、現実を虚構が支えるという構図が強化されていくところも、タイトルに象徴されるヒーローテーマのドラマとして、不覚にも感心した。


「大根侍」は、バスケ部の先輩に恋する女子マネージャーが、先輩が好きなブリ大根を作ってアピールしようとしたところ、侍に因縁をつけられる……
大根を刀とする侍が現代社会にそのままいて、鞘当てから女子マネージャーが決闘することになり、そのまま大根の剣術をおさめて戦いにいどむ。
シリーズで毎回一編はあるシュールギャグコメディ。大根を刀に見立てた殺陣を、ちゃんと説得力あるように描写できていたのは良かった。下手をすると「永遠のヒーロー」よりもアクションに見どころがある。
ただまあ展開は予想を一歩も出ないし、シリーズいつものリフレインオチなので、主演の浜辺美波*4の可愛さしか印象に残らなかったな……


「人間の種」は、プロポーズされながらひとりで仕事をつづける日々をつづけようとする女性のところに、人間のように育つ植物があらわれる……
シュールなようなホラーなような、位置づけの難しいファンタジー。奇妙な植物を育てる描写が、人間を育てる設定となって、そのまま家族を作ることのリハビリとなる。
そして植物の正体は主人公が失った母であり、母を幼子から育てることは主人公自身を育てなおすことに通じる。
このシリーズの近年の水準からすれば悪い内容ではないと思うが、ファンタジー設定で時間を超えて自分と家族の過去に向きあう物語が「しらず森」と丸かぶりしていて、ドラマとしての雰囲気も似通っている。
まったく新味のないエピソードをクライマックスにもってこられたことで、期待外れという印象を持たざるをえなかった。子供が地面に埋まっている序盤の描写などは悪くなかったのだが……

*1:『世にも奇妙な物語'18秋の特別編』 - 法華狼の日記

*2:前回でいえば「幽霊社員」。

*3:思い出は満たされないまま 乾緑郎|集英社 WEB文芸 RENZABURO レンザブロー

*4:実写版の『咲-Saki-』や『賭ケグルイ』の主演をつとめていて、奇矯な漫画的キャラクターを実写で成立するように演じられる女優という特性を活かした配役とはいえるか。