法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『装甲騎兵ボトムズ Case;IRVINE ―ケース;アービン―』

高さ4mにも満たない簡素で無骨な人型兵器AT。流出したATを使って擬似戦闘し、高額の賭金と安価な生命が消尽されていく興行バトリング。
敗北専門の八百長をおこなっていた主人公アービンは、ある日のバトリングをさかいに、戦闘狂の若者ペイガンからつけねらわれるようになった。本気の殺しあいのつもりだったのに手を抜かれた、という理由で。
アービンがバトリングに参加しているとは知らない妹と、ペイガンをもてあましていた女興行主を巻きこみ、アービンは暴走するペイガンと戦うこととなる。


1983年のロボットTVアニメ『装甲騎兵ボトムズ』の世界で、本編と独立した人物と物語を描くオリジナルビデオアニメーション。初監督をつとめた五十嵐紫樟をはじめとして、比較的に若手のスタッフが多く参加。2010年にイベント上映され、2011年に発売された。
戦後に職を失った兵士が兵器をつかった興行で糊口をしのぐ「ウド編」と、ベトナム戦争カンボジア紛争をモデルとした地域紛争を描く「クメン編」。その『装甲騎兵ボトムズ』における1クール目と2クール目の世界観を、40分間に凝縮したような中編になっている。
戦争のトラウマをもちながら擬似戦闘の意図的敗北で癒されている主人公と、戦争を知らずに擬似戦闘しながら命がけの戦いに焦がれる若者が、対立の構図として現代的で面白い。もちろん物語として深めるほど尺に余裕はないし、多くの登場人物は類型的な描写にとどまるが、それが娯楽作品として適度なまとまりを生んでいる。


最大の売りは手描き作画されたロボットバトル。バトリング向けに派手なカラーリングと改造をほどこされたATが、立体的な戦場で暴れまわる。背景動画も手描きされ、映像として充分な質と量があった。
TVアニメの直接的な続編では、2007年の『装甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ』以降から3DCGでATが描画されるようになった。アニメロボットとして最も無機的な量産兵器であるATには3DCG描写が合っているものの、やはり手描き作画にも独特の魅力はある。


なお、キャラクターデザインをつとめたのが『舞-HiME』の久行宏和ということもあり、作画は全体的にシャープで清潔感がある。メカ作画監督をつとめた前田清明によるメカも油臭さや汚れはほとんど描かれない。
そのため泥臭さが売りの『装甲騎兵ボトムズ』らしさは薄いかもしれない。しかし、終戦後の発展途上の街における華々しい興行を描いているのだから、同じ世界観の片隅にあってもおかしくはない風景だ。あくまで同一世界観のスピンアウトと思えば、違和感ない。