法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『名探偵コナン 時計仕掛けの摩天楼』

 森谷帝二という建築家に招待された高校生探偵の工藤新一だが、謎の組織によって子供のような肉体にされていた。そこで正体を隠して居候している探偵の毛利小五郎に代役として行ってもらい、自身は江戸川コナンという名前の小学生としてついていく。それからすぐに謎の連続爆破事件がはじまり、少し前の殺人事件との関連も浮かびあがってくる……


 1997年に公開された人気アニメ劇場版シリーズの1作目。TVアニメの監督とメインライターだったこだま兼嗣古内一成が同時並行するように監督と脚本を担当した。

 まだアニメの彩色に絵の具をつかってカメラで撮影していた時代、3DCGの使用はタイトルくらいで、全体を手描き作画で楽しませる。地味なパートでも必要最小限ながら群衆を動かしているし、自動車も電車も手描きでていねいにアニメーションされている。EDが実写なのはこのころの流行りか。


 物語については、ひさしぶりに見ると『新幹線大爆破』や『スピード』を思わせる列車パートが記憶より短く、中盤だけで終わる。
 逆に、いかにも怪しげなゲストキャラクターが真犯人というわかりやすさで爆破サスペンスを重視した作品と記憶していたが、あらためて見るとミステリとしての構造もよくできている。
 作品の基本設定を見せるための冒頭の事件や、ミスディレクションにあたる回想の事件で、意外ときちんとオーソドックスな推理を展開。そしてそれらの事件のささいな部分が本筋の爆破事件の伏線として機能している。
 終盤で毛利小五郎がレギュラーキャラクターを犯人と推理してしまうミスも、記憶より説得力ある推理になっていて、むしろ劇場版らしい特別な印象を生みだしていた。


 設定が増えていく以前の劇場版1作目なので、キャラクターや設定が多すぎず無駄のないドラマになっているところも感心した。OPでのスケボーの設定などの細かい説明がきちんと本編の推理に反映されている。
 作品のリアリティラインが現在より高めなところも推理の説得力とサスペンスの緊張感を高めている。たぶん後年の毛利蘭ならクライマックスでコナンとへだてている扉を蹴破れてしまうのではないだろうか。