法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『名探偵コナン』女子高生探偵 鈴木園子の事件簿/10年後の異邦人[ストレンジャー]

2008年と2009年に応募者向けに販売された短編OVA2作品を、ひとつのパッケージに収録。


「女子高生探偵 鈴木園子の事件簿」は、報道雑誌社で殺人事件が発生。いつものように毛利小五郎が思いつきでダイイングメッセージを推理し、そのあやふやさが問題になっているところに、いつもは事件をひっかきまわす鈴木園子が女子高生探偵として登場する……
……というオリジナル舞台劇の脚本を、少年探偵団に披露する鈴木。脚本や主演に自ら名乗りをあげて活躍しようとしたが、見せ場の登場シーンで満足してしまい、真相まで考えていなかった。そこで子供たちに展開のアイデアをあおぐ
メタミステリの一種で、我孫子武丸『探偵映画』や米澤穂信愚者のエンドロール』を思わせる。床の模様に関係する毛利小五郎の誤った推理は舞台では観客からよくわからないと指摘されたり、あくまで劇中の推理劇として考察されていく。ひとりの推理にあわせて人間として描写されていたキャラクターが犬に変更されるメタ叙述トリックが情景として楽しい。
ただ、最後にコナンが思いついた推理も、二重の手がかりと解釈しただけで、ダイイングメッセージ一般の根拠薄弱さには向きあわず。もっとも、今どき指紋が堂々と残っていることもふくめて、作中作なので今回は問題ない。


「10年後の異邦人」は、肉体を本来の年齢にもどす薬を飲んだコナンが、十年間の記憶を失った高校生として十年後に目ざめる。
いつもの少年探偵団のメンバーが高校生になった姿は2001年の『劇場版名探偵コナン 天国へのカウントダウン』でも予測技術で描かれているが、今回は十年後の人間模様が二次創作的で楽しい。ただ事件は何ひとつ起きず、ミステリ的な謎解きの面白味もない。十年後ならではの社会や技術の変化も描かない……が、そもそも原作からして1994年に連載をはじめてから作中時間が経過しておらず、しかも2022年現在はOVAが販売された12年後にあたる。
極端な時代変化を描かないことはメタな意味で正しいわけだ。それと同時に、原作の初回が発表されてから四半世紀がたつのに劇中では一年間すら経過していないサザエさん時空が、このようなかたちで表面化した。
しかし薬を飲んでこもったトイレに十年後も入っていた謎をコナンが向きあわず、予想どおり夢オチで終わっただけなのは疑問。どうせ夢オチで終わるのなら、メインキャラクターが殺されるような本編では不可能なミステリ展開にもできたと思うのだが……