「スマトラの手づくり列車」は、インドネシアで個人がつくった悪路を無理やり進む交通機関を紹介。ぬかるみを進む大型タクシーは同種のドキュメンタリで見たような光景だが、手作りした列車は珍しい。
百年前のオランダ植民地時代につくられた線路を利用しているところで歴史の痕跡が感じられるし、列車は機械部分だけ中古を買って残りは個人が完成させたたくましさに感嘆する。
その列車を進行方向に向けるため人力でもちあげて線路に乗せる光景は、小型蒸気機関による路面列車を原寸大で再現した坊っちゃん列車のようだ。
松山市駅前電停で、「坊っちゃん列車」の方向転換を楽しむ | ひろやすの汽車旅コラム | 日本旅行
自らのジャッキで機関車全体を持ち上げて、車輪が浮いたところで端の方を押すと、クルクルと回転するのです。これは、鉄道線の保線用車などで使われている技術ですが、営業用車両で実用に使っているのは、日本中でこの"坊っちゃん列車"用機関車だけです。
客車はどうするのかな? と思ったら、機関車を停めたあと、乗務員が客車に走り寄りました。そこでブレーキを弛めたと思ったら、なんと人力で動かしはじめました。
しかし上記の坊っちゃん列車は普通の路面電車と線路を共有しているので、問題は方向転換だけ。スマトラの列車は放棄された路線をそのまま進むので、あちこちが寸断されているし橋は崩落しそう。
線路がとぎれたところは細くしたトタン板をしいて、用意していないところや脱線した場合は周辺の木の枝を切って一直線にならべて線路にする。走行しながら連結部分を助手が全身でつっぱってバランスをとる。
命がけの連続だが、平均速度は遅くて人間の歩行と大差ない……すごすぎてこれが現地では日常ということが信じられないくらいだ。
「美しいミイラの劣化を止めろ」は、イタリアのシチリア島にあるミイラがあつまった修道院で、なかでも美しく残った子供のミイラを保存する計画を紹介。
そのミイラは2歳で亡くなったロザリア・ロンバルドという少女のもので、将軍の娘だったという。ロザリアに魅せられた人類学者が、昔より肌が黒ずんできていることなどを懸念し、ミイラ研究者などと協力。
かつて棺からロザリアを見るためのガラスが割れたことがあり、それが劣化を早めた可能性がある。だから調査のためガラスの棺をあけることも劣化を早めかねない。
そこで移動式CTスキャンをつかうことで棺の内部からミイラの状態まで立体的に調査してみると、棺の下には乾燥剤が入ったと思われる瓶があり、ロザリア自身は脳や内臓も残っていて、肺がちいさくなっていたことから肺炎で死んだという逸話が事実とたしかめられた。しかも当時のミイラでは義眼にかえることが多かった眼球ものこっていた。
前後して、ミイラがどのようにつくられたか制作者の子孫をたどり、制作手法の文書記録を発見。そこでは発明されたばかりのホルマリンが防腐剤につかわれたり、ロウソクにつかうパラフィンを頬に注射して丸みをつくったとわかった。
そして人類学者たちは小さな棺そのものを覆うケースを修道院にはこびこみ、ロザリアが安置されていた地下まで人力でおろし、完全に密封することにしたという。
ちなみに上記の情報はナショナルジオグラフィック記事でも確認できる。
natgeo.nikkeibp.co.jp
ただ、問題の修道院には生前に女好きだったため通行する女性を見て楽しむためにと、立った状態で安置されたミイラがいることが序盤に紹介されていた。スタジオで、そのミイラがいる修道院に美しい少女のミイラが安置されている微妙な状況にツッコミが入って笑った。というか、そんな欲望にまみれた生前の願いを聞いて良いのか修道院。
「断食中でも闘うアメフトチーム」は、米国ミシガン州のディアボーンで、なぜか空腹のまま試合をしているフォードソン高校のアメフトチームを紹介。
ディアボーンはかつてさびれていたが、アラブ系の移民の流入で発展したという。そしてアラブ系の好むサッカーから、アメリカ人らしくアメフトを好むように文化は変わっていったが、イスラム教への信仰はのこしている。
それゆえディアボーンは偏見にさらされた地域であり、特に911世界同時多発テロの直後は誹謗中傷が殺到したという。携帯電話の転売でもうけようとしたフォードソン高校生は、テロにつかう電子部品をおくるために大量購入していると疑われて逮捕された。それらの逆境をはねかえすように地域社会はアメフトで絆をつくって、フォードソン高校は強豪となっていった……
……番組収録から放送までのあいだにハマスの一斉攻撃とイスラエルの過剰報復があり、遠く米国社会もゆらぐことになったわけだが、それゆえ複雑な心情をもちながらの視聴となったし、だからこそ奮闘する若者たちを素直に応援しようと思った。
ここで予想できたが、やはりラマダンの期間は断食をするため、チームの大半が空腹のまま練習や試合をすることになっているそうだ。もちろんラマダンの断食は日中だけで、夜になれば食事をとれるので餓死したりはしないし、むしろ晩にアメフトの映像を見て楽しんだりする。
しかし日中ずっと練習しながら水も食料も口にできないというのは、たしかに考えてみると厳しすぎる。イスラム教徒ではないコーチもプレイヤーを理解するため同じように断食をした苦しさを語る。食べざかりの若者ならなおさらだろう。
そしてラマダンが終わる前に、フォードソン高校は試合をすることに。対戦するディアボーン高校は高級住宅街にあり、ホームの競技場でむかえうつ。アウェーのフォードソン高校が不利なようだが、ディアボーン高校も名前のとおりアラブ系アメリカ人が多いらしく、たがいに空腹をかかえて試合することに。
しかし試合そのものは立ちあがりこそもたついていたものの、なかなか見せ場の多い内容で、ダイジェストながら見ごたえを感じた。