法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』ドラえもんに休日を!!/手作り工作をほんものに/ゆうれい城へ引っこし/できたらいいな! 夢の押し入れ大改造

 誕生日SPとして、17時からの通常枠『誕生日直前スペシャル』と、18時56分から1時間の特別枠『ドラえもん誕生日!できたらいいなスペシャル』に2分割して放映。


ドラえもんに休日を!!」は、2008年の再放送。ドラえもんをいたわる感動短編を誕生日SPの前座にするコンセプトは初放送と同じ。しかしアレンジが少ないためか、初放送時は同時に放送された別エピソードばかり印象に残ってしまった。
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 15年ぶりに視聴すると、けっこうナンセンスギャグノリが2005年リニューアル前に近いと感じさせる。それでいて映像も細かいアレンジも良い。ただ当時の感想で書いた次回につづく部分は見あたらなかった。


「手作り工作をほんものに」は、のび太の稚拙な工作をドラえもんがかんちがいしてしまい、おわびのように秘密道具で本物にしてやる。そしてしずちゃんたちの工作も本物にしていくが……
 鈴木洋介脚本、五月女誠子コンテによるアニメオリジナルストーリー。やや短めのストーリーで、「紙工作が大あばれ」をアレンジしたような物語が展開される。ジャイアンスネ夫とあまりいがみあわないのは、誕生日に向けて無駄なストレスをためさせないためか。
 子供がつくった簡単な工作がビジュアルを変えないまま本物となり、キャラクターが本物としてあつかうことでデフォルメされた本物に感じられるという、アニメ表現の面白味を感じさせる内容ではあった。キャラクターが思い思いに工作したものもバラエティがあって、普通では体験できないことをキャラクターが体験できるので、見ていて楽しい。


「ゆうれい城へ引っこし」は、土地が高くて借家ぐらしがつづくと語りあう両親を見て、のび太は夢のある話をしたいと思う。するとドラえもんは城を買う話をはじめた。しかしそれは現実に可能で……
 2009年には大晦日SPでアニメ化した*1、原作前半のなかでもゴシックな恐怖趣味にいろどられた傑作を、若手の森山瑠潮コンテ演出で中編として再映像化。
 ちなみに2009年は渡辺歩コンテで期待させたが、恐怖をいっさい感じさせないスラップスティックにしてしまい、過剰なCM挿入とあわせて困惑させられたものだ。たしかに原作も中盤にコメディチックな描写で城で生活する困難を描いているが、それくらいの描写はホラー映画でも怖さに慣れさせないため挿入する。後に、もともとリニューアル映画シリーズ3作目として「ゆうれい城へひっこし」の長編化を企画していたところ、いきなり原作側から「さよならキー坊」の長編化を要求され、そこから迷走の結果として『のび太の緑の巨人伝』*2が怪作になったことを知った。そのわだかまりが2009年版のような珍作を生み出してしまったのかもしれない。
 そのようなわだかまりがないためか、今回は細部にアレンジは入れつつ原作の魅力をつたえる素直なアニメ化をおこなっている。小倉監督体制らしく止め絵演出や漫画の描き文字のビジュアル化も散見されるが、恐ろしげな女性の登場や声が城の奥に消えていく広さ演出など、効果をあげられるポイントにしぼっているのでうるさくない。
 残念ながら照明のない城の陰影を強調した原作と違って、どのカットも基本的に背景美術がしっかり見える違いは気になった。クライマックスの本物の幽霊も顔を闇に落としつつも表情がはっきり見える。放送事故などと思われないよう真っ黒い絵をつくれないのかもしれない。しかし、かわりに大判の背景美術でキャラクターの動きにあわせたカメラワークをつけて、城の広さと人の小ささを印象づけ、漫画の原作とは異なるアニメーションならではの恐怖はつくりだしていた。原作と比べて城の構造を見せる描写も多い。
 また、ファイルーズあいがゲストキャラクターの声優をつとめることが発表されていたが、なるほど素人の耳には外国出身者らしいと思わせるドイツ語の発音になっていた。若々しくオテンバなキャラクターにもあっていて、ただ人気声優だからと引っぱったわけではないとわかる。


「できたらいいな! 夢(ゆめ)の押(お)し入れ大改造(かいぞう)」は、押入れに物をつめこみすぎて戸がたおれたことをきっかけに、のび太ドラえもんへの誕生日プレゼントとして押入れリフォームを思いつく……
 清水東脚本、小倉宏文監督コンテによるアニメオリジナルストーリー。視聴者公募の「みんなのできたらいいな」のアイデアをつめこんだ、小ネタいっぱいのエピソードにしあがっている。
 リフォームが終わるまでドラえもんを帰らせないため、のび太以外が思い思いにドラえもんを接待するわけだが、その過剰さがひどくて笑える。ドラえもんのコスプレや百面相でいつもとは違う姿も見られたし、ジャイアンの歌に耐える場面では逆に心が死んでいて動きがないコントラストで笑える。それでいて、その接待がちゃんと本筋のプレゼント選びにかかわってくる構成がうまい。
 そしてリフォームされた押入れは思い思いに欲望をかなえるだけで、たくさんの応募から選ばれたといっても子供が思いつくレベルのアイデアにとどまるが、とにかく量が多いし映像化もしっかりしているので予想外に楽しい。もちろん見て即座に疑問を感じるアイデアが多いが、それが気になる前に次のアイデアが提示され、やがて同時進行していきドラえもんは善意のカスケードであらためてひどい目にあっていく。この天丼の過剰な密度はたしかにスペシャルだ。
 どのアイデアもたしかにドラえもんを楽しませたり楽させることに徹底しているので、見ていてストレスがたまらず不快感に反転しない。企画の無茶さをそのまま活用して、楽しく笑えるストーリーにしあがっていた。