広い屋敷でひとり暮らしの少年、衛宮士郎。そこへ後輩の少女がかよってくるようになる。少女は名を桜といい、士郎を敵視する同級生の間桐慎二の妹だった。少しずつ時をかさねる士郎と桜に、魔術をめぐる因縁と、召喚された英雄たちの争いが影を落としていく……
2017年に公開されたアニメ映画。2006年のTVアニメの終盤でだけ映像化された原作ゲームのルートを、ufotableが制作する体制ではじめて映像化する三部作の一作目。
ufotableで長らく活躍していたアニメーターの須藤友徳が、原作の発表時からファンだったこともあり、三部作の監督に抜擢されたという。共同で絵コンテやキャラクターデザインも担当しているだけでなく、総作画監督に単独でクレジット。
ほとんどひとりが中核をしめている作品ながら、良くも悪くもufotableらしく全体が安定して飛躍がなく、あまり個人的なフィルムという感じはない。キャラクターがひとりだけの時、画面中央に配置するコンテが個性的なくらいか。
物語は、魔術で呼びだした伝説的英雄「サーヴァント」に殺しあいをさせる一種のデスゲームで、原作ゲームで最後に明かされるルートを映像化。あくまでTVアニメ2期を受けた別ストーリーという感じで、すでに映像化したパートは省略。映画開始30分で戦いのはじまりがTV映像ダイジェストとして挿入される。主人公の士郎がマスターとなってサーヴァントと契約した経緯も省略されているし、重要なサーヴァントのアーチャーは途中まで断片的な姿と会話でしか登場しない。
一年半前からの不穏な学園生活を30分かけて描いて、デスゲームの説明はダイジェストと教会の説明で簡単に処理されるだけ。ほとんどファンムービーのような作り。マスターが日常で出会う誰で、サーヴァントの正体は何かという謎解きには時間をかけず、むしろ敵マスター側から主人公へ接触したり、あくまで脇道のように誰も知らないところで決着したりする。
今回の映画で、解くべき正体はマスターやサーヴァントではなく、それらを圧倒する「カゲ」なのだ。もちろん原作を知らずとも、先述した2006年のTVアニメなどメディアミックス作品を多少知っていれば正体は明らかだし、この映画を単独で見てもミスディレクションがないので気づくことは難しくないだろうが。
映像作品としてはサーヴァントのような超常的な存在をホラー映画のように表現する原則が個性的。すでに何度も映像化した作品として、設定を説明しなくてもすむ余裕が暗示的な描写を可能にしたのだろうか。
サーヴァントの本格的な登場は吸血鬼映画のオマージュで、中盤から無言で出没する「カゲ」はJホラーのようにたたずむだけで恐怖を感じさせる。アサシンとキャスターのサーヴァント戦は日本建築を舞台に惨劇を正面から見せるあたり『呪怨』のようだし、アサシンとランサーの戦いは最終的にゴシックホラーな怪奇映画のようになる。そして超人たちの戦いを巨大な触手がからめとり、B級クリーチャー映画のように奪い去っていく。
ただ、ライダーとの初戦闘は、主人公側が敵を問いつめなかったり、サーヴァントが戦闘以外では棒立ちになったり、イベント消化で挿入しただけのような不自然さを感じた。せっかく戦闘後に第三勢力を出したのだから、追及しようとしたがはばまれたという描写にできたはずだろうに。