まず、声優インタビュー記事から同性婚が削除された公式の説明について、正直にいえば納得しがたいものがある。
月刊ガンダムエース2023年9月号掲載のインタビュー記事についてのお詫び|機動戦士ガンダム 水星の魔女 公式サイト
当該記事において、ガンダムエース編集者の憶測による文面が存在し、校正時に修正依頼を行ったにも関わらず、該当箇所の修正が反映されないまま責了となり、7月26日に発売されることとなってしまいました。
作品側としては、本編をご覧いただいた皆様一人一人の捉え方、解釈にお任せし、作品をお楽しみいただきたいと考えておりますので、ガンダムエース編集部とも協議の上、修正可能な電子版の記述は、本来の依頼通りに修正し、現在は配信しております。
たしかにインタビュー記事というものは口頭ゆえに説明不足な内容をおぎなうことが通例であり、そこでおぎなった言葉が意図とは異なっていたとされることはあるだろう。しかし公式側が「本来の依頼通り」と説明しているところは、声優の意図とは異なっているとは読みづらい。
作品自体をふりかえっても、まず第1話で女性主人公ふたりの当面の目標として描かれた結婚が、恋慕してくる異性のパートナーを明確に断るエピソードをふたりとも描いて、最終回で結婚の象徴的な小道具をおそろいで身につけて周囲が婚姻関係を前提にした言葉*1を発した。これで主人公ふたりが結婚している以外の「解釈の余地」があるという公式の説明は無理を感じざるををない。
たとえるなら、競技アニメで優勝することが目標とされた主人公が、先頭を走る選手をすべてぬきさって、最終回に金メダルをもっている描写がされても優勝していないと解釈するようなものだ。ゴールの瞬間さえ描かなければ解釈は自由とはならないだろう。正体不明の第三者が追いあげて優勝したとか、その世界では金メダルが優勝を意味しないとか、それまで説明されていない設定を新たに足す必要がある。
実際の作品の描写を見るかぎり、同性婚をおこなっていないと解釈するためには無理が必要だろうし*2、公式の説明がマイノリティ軽視と解釈されて批判されるのも当然だろう。
上記の公式発表から、上層部が同性婚描写を抑圧して、そのなかでスタッフはせいいっぱい同性婚をしたと解釈できる描写をいれたのだという「解釈」もされていた。
作品の監督をふくむスタッフによる非公式同人誌が販売され、そのなかで主人公ふたりのウェディングドレスが描かれたらしいことも、その解釈を後押ししたようだ。
【本日のお品書き】
— 高機動プリン体@C102土曜日 東ス46ab (@koukidou_p) 2023年8月11日
「水星のすべて」2000円/冊
A4/フルカラー/クリアファイル付
-注意がき-
・お一人様2部まで(在庫状況で1部へ変更)
・本誌の通販、再販はございません
・本誌は同人誌(非公式)になります(公式のお疲れ様本とは異なります)
・本サークルの既刊の在庫は本日ございません#C102お品書き pic.twitter.com/XDxyJZQ4vL
しかし作画監督として参加していた大野勉氏が、スタッフが結婚を描写したかったわけではないという解釈を語って、新たにマイノリティ軽視として批判されている。
スレッタとミオリネの結婚に固執してる方が結構居るみたいだけど、スタッフ側は基本、上がってきた脚本、絵コンテを元に展開されてるので、「へ~そういう形で終わるんだー」という、一視聴者的に客観視して作業に入っていったんじゃないかな?と。…
— Tsutomu Ohno (@ohno_ben_w) 2023年8月13日
スレッタとミオリネの結婚に固執してる方が結構居るみたいだけど、スタッフ側は基本、上がってきた脚本、絵コンテを元に展開されてるので、「へ~そういう形で終わるんだー」という、一視聴者的に客観視して作業に入っていったんじゃないかな?と。なので、スタッフ的には結婚の直接的な描写が無い事にも「なんで結婚してるってはっきりさせないの!?」みたいなのは無いんじゃないのかなーと。
自分なんかは、今の時代【結婚】という表現じゃなくて【パートナー】と呼ぶこともあり、お互いに支え合っていく関係だと双方が理解してれば、それはそれでいい…みたいなのもあったりするから、スレッタとミオリネが強い絆で結ばれているようで良かった…嬉しかった…と解釈してる。
で、件の同人誌へのスタッフの寄稿内容としては、「スレッタとミオリネの結婚を描写して欲しかった」…というよりは、「TVで描写されなかった部分ではこんな場面もあったのかなー」「こんな光景も見たいなー」とかの、あくまでも「if」的に想像として描かれているのではないかと自分は思ってます。
「スタッフもこうしたかった(結婚の明言や描写)はず!」みたいなのを見かけるけど、それはご自分の考えをより強くするために、【スタッフもそう思ってたに違いない】と無意識のうちに思ってしまってるんじゃないかと。
【1話でいがみ合ってた二人が、24話ではかけがえのないパートナーになっていた】…それでいいんじゃないのかなーと私なんかは思う訳です。
そこで描かれたこと以外の事は、視聴者一人一人が思い想像を膨らませるのは自由だと思います。
ただ、自分がそうだからといって周りに対して攻撃的になる理由なんて無いんじゃないですかね?【同人誌】ってそういうもんじゃないんですか?
私も含め、寄稿された他の方々も、【作品に対する想い】を形にしただけであって、批判される対象ではないはずです。そんな事を思ったですよ。
「スレッタとミオリネの結婚に固執」や「自分がそうだからといって周りに対して攻撃的になる」といった表現の選択は批判されても不思議ではないだろう。
ただし大野氏は、話題になっている同人誌『水星のすべて』への寄稿者でもある。そうでなければ最後から二番目の段落で、同人誌の寄稿者への批判へ反論する意味がない。
しかし同性婚を否定しないでほしかったと公式を批判する人々は、寄稿者を批判するどころか、むしろ同人誌を歓迎していたというねじれがある。
ねじれの原因としてひとつ思い当たるのは、大野氏が本当に否定したかったのは同性婚ではなく、同人誌の公式としての責任ではないだろうか。
実は同人誌に対しては、同性婚を否定されたくなかった視聴者の歓迎だけでなく、主人公ふたりは同性婚していないという解釈から批判する視聴者の動きもあった。
制作スタッフ同人誌「水星のすべて」 - 機動戦士ガンダム水星の魔女・問題点まとめwiki
①詳細は別ページに書くが、つい先日声優インタビューの修正があり、角川とバンナム両方からスレッタとミオリネの「結婚」は編集者の憶測宣言、視聴者一人一人の解釈に委ねる宣言があり、二人の関係を明言しないというスタンスを明らかにした。
・実際は非公式にもかかわらずスレミオというカップリングが公式設定と誤認させよう、あるいは暗にそうアピールしようという意図が見える。「スレミオ」自体はコンビ名で使っている人間もいるが、①の騒動からさして時間がたっていない今この状況でカプとして受け取られることに気づいていないはずはないだろう。
誰の絵なのかまではわからないがスレッタとミオリネのウェディングドレス姿の絵のサンプルを見せている。
まあ3年体が動かなくて顔にパメ痕があったスレッタがいつこんなことできるのかというとあり得ないので単なる一スタッフの願望でしかないのは明白だが。①②の件を合わせるとまーた一部の特殊な方々が「公式設定!スタッフは本当は結婚させたかった証拠!」と叫んで暴れ回るのではないか。😮💨
このような自己の解釈に「固執」するWikiがあることは話題作の風物詩ではあり、一種の表現の自由と思わなくもないが、下記のようにツイッターで広められるようになると少しあつかいが難しくなる。
制作スタッフ同人誌「水星のすべて」 - 機動戦士ガンダム水星の魔女・問題点まとめwiki
— 社会不適合者 (@shyafuchan) 2023年8月13日
まとめ出来てた。何がダメで怒ってるのかわからないひとはこれ見てください。#水星の魔女 https://t.co/sLgnZDxpTg
制作スタッフ同人誌「水星のすべて」 - 機動戦士ガンダム水星の魔女・問題点まとめwiki
まとめ出来てた。何がダメで怒ってるのかわからないひとはこれ見てください。#水星の魔女
公式スタッフといっても個々人が同人誌を制作することは基本的には版権などの問題があり、よほど悪質でなければ目こぼしされるものの、それなりのリスクがある。
こうした同人誌を問題視する動きに対して、直接的な言及をさけつつ中途半端に釈明しようとして、大野氏のツイートのねじれが生まれたのではないだろうか。
あくまでひとつの想像にすぎないし、あまり本題とは関係ないことだが。