法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『日本敗れず』

 1945年5月23日、日本へはげしい空襲がおこなわれ、人々は焼け出されていった。さらに8月6日と8月9日に広島と長崎へ原爆が投下され、日本の中枢は降伏しようと動き出した。しかし戦争継続をもとめる日本軍の一部隊が、降伏宣言の録音を奪取しようと決起する……


 新東宝による1954年の日本映画。敗戦からわずか9年後、主要人物の名前を少しだけ変えて、戦時中の実話「宮城事件」を娯楽色たっぷりに映画化した。

 冒頭5分ほどが戦火の被害を受ける民衆描写にあてられていて、ミニチュア特撮と巨大オープンセットをつかった空襲表現は見ごたえある。
 特に、火の雨のような焼夷弾を表現するために火花を散らしているところが、意外と雰囲気あってよくできている*1

 しかし本編はナレーションにのせた会議シーンがつづき、椅子に座った俳優が建前のような会話をするばかりで動きに欠ける。
 さすがに決起シーンからは画面に動きが出るが、有象無象の暴走というより統制がとれた動きなので、良くも悪くも泥臭さがない。


 監督は戦前のハリウッドで俳優だった阿部豊で、阿南大将ならぬ川浪大将で主演したのもハリウッドで活躍した早川雪舟
 しかし国際的な視点などは特になく、新東宝らしい天皇絶対視にもとづく物語が展開され、降伏派も継戦派も日本のためという信念で動いたように美化されている。
 同じ事件を題材にした『日本のいちばん長い日』*2の暗殺シーンはうまく刀をつかえずみじめに演出していたが、こちらの暗殺シーンは拳銃で一発でしとめて無様に見えないよう演出している。
 タイトルの意味も、日本の負けを認められない継戦派の主観というより、戦争に負けて勝負に勝ったのだと説得する降伏派の主張をあらわしているようで、敗北を無駄に引きのばした史実に向きあえていない。


 さすがに決起に挫折して自決する結末などはむなしく描けていたと思うが、あくまで天皇の御聖断神話にそった新東宝らしい愛国映画だった。
 それもふくめて、すでに半世紀以上の時間がたって歴史観の記録としての意味があり、見ていて興味深さは感じられたのだが。

*1:開始3分25秒。

*2:hokke-ookami.hatenablog.com