「ウガンダの帰省」は、奥地から都会にやってきて学問をおさめた青年が、故郷へ帰って成人の儀式をやりとげるまでを映す。手間をかけて都会へ行けたのは、長老の息子という立場のため。
つい先日の放送*1では独裁政権が問題視された国家だが、今回のドキュメンタリでは活気あふれる発展途上国らしく人々があふれる都会から文化を維持する田舎まで見せる。
広い土地いっぱいに小さなバスが密集し、故郷へ行くバスを見つけるのも一苦労。そのバスが広場をぬけだすまでも他のバスを無理やりよける乱暴ぶり。ほとんどの道路は舗装されていない悪路だが、野獣がいるようなサバンナではないよりもマシ。わざわざ水たまりにはまる必要はないと北野武がツッコミをいれたが、他をとおるのはもっと難しいでしょうと所ジョージが指摘する。
「大人気イギリス空港税関」は、いつものように隠された麻薬を発見するくらいで普通な印象だったし、空港職員が密輸に関与しているケースも以前にあったが、ドバイから来た男は珍しい。
飛行機学校に行ったと称しているが入学しておらず飛行機を見ていたというだけで、飛行機にまつわる機密情報資料を大量にもっていたのでテロリストと疑われた。しかし調べると機密情報は一般人でも入手できる範囲で、本当に飛行機の愛好者というだけだったというオチ。
「北スーダンの王」は、誕生日に何がほしいかと聞かれてプリンセスになりたいと答えた6歳の娘のため、誰も所有していない土地を見つけて王を名乗った米国人の父親の顛末を描く。
自分が王になれば娘が自動的にプリンセスになると考えた男は、エジプトとスーダンの国境に両国が所有権を主張していない土地を発見する。時期の異なるふたつの国境線があり、エジプトとスーダンは資源の豊かな広い土地「ハラーイブ・トライアングル」の所有権を主張。その所有権を主張するため国境線を選択すると、連鎖的に相手側の土地になってしまう場所があった。その無主地こそが「ビル・タウィール」。
勝手に所有権を宣言しても、エジプトとスーダンは文句をいえない状況。しかも両国にとっては相対的に魅力がない土地であっても、2000平方kmはある。東京都と大阪府の中間くらい。そこでAFP通信がつたえたように、「プリンセス」はアフリカの食糧難を救うため農地をつくることを提案する。
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そうして「樹立」された「北スーダン王国」だが、承認する国家はなくとも文句をいう国家もなく、ひょんなことからはじまった男のプロジェクトに参加しようとする動きが複数あった。後に更迭されたがマイケル・フリンが米軍の駐屯地にしようとしたり、最終的に白紙となったがディズニーが映画化する動きもあったという。
しかしどのプロジェクトも実行にはいたらず、タイで会社経営している中国人からテーマパークの計画が提案されるも、犯罪者がパスポートをえるための場所にしようとしていたことがわかった。妻にはたらかせながらプロジェクトを進めていた男だったが、最終的に「北スーダン王国」の夢は消え去ったという。
しらべてみると「ビル・タウィール」はけっこう有名らしいが、連鎖的に所有権が放棄された広大な土地は、SFや架空戦記のネタにもつかえそう。
「少女がコアラを故郷の森にかえす」は、オーストラリアのマグネティック島へ移住した獣医一家の、コアラを救うためつくった専門病院を紹介。
基本的にはこの種類のドキュメンタリのオーソドックスな展開に終始するが、幼い少女も参加しながら、救おうとした命があっさり失われる無力感もきっちり描いたのは良かったかな。
「ゴッホ最後の絵に込められた思い」は、自殺したゴッホが最後に描いた本当の絵画はどれなのか、特定するための研究を紹介する。
これまでは「カラスのいる麦畑」が最後の絵と思われていたが*2、実際はそうではなかったことがわかっていく。
なかでも未完成のふたつある絵のうち、自殺した朝に描いていたと関係者が書き残した木の根の絵が最後の絵と主張される。これがどこまで確定的な説なのか見ていて判断しづらかったが、実際に絵と同じ木の根まで発見されたことで説得力は感じられた。
「チベット高僧の生まれ変わりの少年」は、幼いころにチベット高僧の記憶を周囲へ語ったインドの少年が、チベット仏教で高僧の生まれ変わりとされる「リンポチェ」とあつかわれながら、多くの障害に直面していく姿を紹介。
5歳のころ、ウルギャンという高齢の僧侶が付き人となり、寺院に入った少年パドマだが、記憶していたチベットからリンポチェとしてむかえられることもなく、高僧だった記憶もうすれていく。ついには寺院を追い出されてしまう。
しかしウルギャンはパドマにつかえつづけ、生まれ変わる前にいたカムという地域へ乗りこもうと決める。しかし2000kmもの距離があり、中国が監視するチベットまで旅行するには旅費をためるだけで時間がかかってしまった。
12歳になったパドマとウルギャンはカムへ向かうが、インドとチベットの境界の村ラチュンにたどりつくだけで2ヶ月もかかった。監視がきびしいからと村人から止められるが、ふたりは雪山へ徒歩で向かう。しかし山頂近くで断念し、ホラ貝をふいてカム地方へ音だけでもつたえようとした。
そしてパドマは現地の寺院が受けいれてくれて教育も受けられるようになったが、ウルギャンはインドの元いた地方へ帰っていく。雪合戦と称して泥団子をぶつけあうふたりの年齢をこえた絆はうつくしい、が……
……正直にいえば、旅費をかせごうと奮闘したり危険な雪山をのぼったりする姿を、横にカメラマンがいる状態でやっていることを考えると、演出過多と思わざるをえないタイプのドキュメンタリだった。題材にしても、かつて一世を風靡しながら詐欺師などに転落していった「超能力少年」のたぐいを思い出さずにいられない。これは外国の文化を尊重できていない感想だとは思うし、ドキュメンタリ自体は「生まれ変わり」とされる立場の意外な不安定さを映しとった記録として重要だとも思ったが。
*1:hokke-ookami.hatenablog.com
*2:黒澤明監督の映画『夢』で実写化されたことで印象深い。1956年の映画『炎の人ゴッホ』では、この絵を完成してすぐ自殺した描写になっているという。