法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『レストレポ前哨基地』Part.1/Part.2

 2007年から2008年にかけてアフガニスタンの山中につくられた米軍基地の日々を撮影した、2010年と2014年のドキュメンタリ。

 ナショナルジオグラフィックで『レストレポ ~アフガニスタンで戦う兵士たちの記録~』として放映されたドキュメンタリに、監督の死後に残された素材で続編がつくられ、あわせて劇場公開された。
www.uplink.co.jp
 まず、Part.1の冒頭は撮影の手振れがはげしく、おそらく素人のスマホ撮影素材も多用されているため、画面酔いしそうになる。クローズアップが多くて状況の全体像もわかりづらい。しかし山中を装甲車で移動する場面でいきなり戦闘がはじまり、ドキュメンタリとしての迫真性が一気に増していく。
 約1年間を約1時間半に凝縮していることを考慮しても、待機が長い同種の戦場ドキュメンタリと比べて戦闘シーンが多く、緊張感に満ちている。最前線をカメラが突入するのではなく、手作り感があふれるもののしっかりした基地に隠れているだけで、周囲から散発的に攻撃される。周囲の山が緑深い森林ではなく、灌木がまだらに生える乾いた地域だからこそ、敵の姿が見えないことがもどかしい。
 うまい黒人調理係がかわいがられたり、心地よさと不快感が同時にただよう軍隊らしいホモソーシャルな空気が流れていく。戦死者を出しながらも少しずつ兵士は緊張感を失っていき、上腕まで露出して、素足で靴をはいた状態で戦闘に参加する。その靴のなかへ機関銃から排出された薬莢が入りこんだり、危なっかしい。
 もちろん予想されたように米軍と現地の距離が遠くへだたっていることも描かれていく。息子がどこにいるのかと問う老人に対して、斬首ビデオの加害者側に映っていると米軍は説明する。簡単に言葉が通じない状況であることが痛感される。
 しかし説得のため映像資料を見せたりする努力は描かれない。後に交渉のために来た上官は上から目線で長老に接する。そもそも基地の名前は最初の戦死者からつけられた。あくまで先進国が目的にそって土地を占有した場所なのだ。
 山頂の基地にこもるしかない兵士たちは現地に根づくことも長老の背後に隠された社会に接近することもできず、約一年の基地生活を終えることを単純に喜んで去っていく。諸外国の支援が破綻したことも当然と思える。


 一方、Part.2はスローモーション処理などもつかって一般的なドキュメンタリの印象に近い。基地内の視点を主軸にして観客に状況を実感させた1作目と違い、タリバン側の映像資料もはさみこんで、さらに兵士間の不和や現地への不信感も描いている。医療支援などで貢献しているのに受けいれられない不満が語られるが、敵がねらってくる場所で姿をさらさせる上官へ不満をもつ兵士もいる。
 こういう前線の部隊は白人男性ばかりで、自分たちは疎外されていると周囲から離れた土地で黒人兵士のひとりが語りつづける。前作の黒人料理番に対するかわいがりを超えたような、黒人相手にかぎらない兵士同士のいじりが何度もくりかえされたりもする。
 映画は最終的に別の場所へ移った兵士たちのインタビューをかさね、帰りたい心地よい場所としてレストレポを位置づける。しかし先述のように疎外感を吐露する黒人兵士もいたし、山頂に孤立した基地は現地社会に根づくことはなかった。
 今回の映画は放棄されたレストレポが爆破される場面ではじまる。土嚢とベニヤ板でつくられたホモソーシャルとマチズモの城は、もはやどこにもない。