法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世界まる見え!テレビ特捜部』春の陽気に誘われて世界のおマヌケさん大集合SP

「最強のドッキリメッセージ」はベルギーの最新ドッキリ番組を紹介。日本では珍しくなった海外の視聴者参加型ドッキリだが、これは関係者に依頼されてドッキリをする構造なのでコンプライアンスを守りやすいのだろう。
 ドッキリの内容も、息子に部屋をかたづけさせたい母の願いをメッセージにしたデモ行進をおこなったり、彼女のできた友人が付き合いが悪くなってさびしいという男たちのため友人を人質に見立てて警察が保護しようとしたり、騙すというより異常な情景に対象を巻きこむ方向性。
 フラッシュモブにメッセージを付属させたようなタイプのドッキリなので、騙されている人間を笑う気になれなくても映像として見ごたえがあったのも良かった。


「ボーダーセキュリティー アメリカ版」はいつもどおりの展開がほとんど。しかし説明がはっきりしない女性の妹に連絡すると、女性が語るより長期の滞在になる予定が語られ、就労をおこなう予定ではないかと疑われたケースは面白かった。実は女性が誕生日をひかえていて、サプライズプレゼントとして予定外の場所への旅行へさそう計画だったという。つまり同日に放送されたドッキリのようなもので、意図せず税関がネタバラシしてしまったというオチ。


「サイボーグの父」は、脳科学者フィル・ケネディの人体実験を紹介。アイルランドで医学の道を進みながらホームレスを助けるボランティアをしていた男は、ホームレスの助言で妻子をかかえた身で渡米。1990年代に、さまざまな動けない患者の脳に電極を埋めこんで、文字をタイピングさせたり、機械の腕を動かさせたり。
 しかし本当に意図した文字をタイピングしたのか、しゃべろうと思った言葉を音声化できたのか疑問だったため、自らの脳に電極を埋めこむことに。自分が責任をとるといっても米国では手術ができず、外国で自身が全責任をとるかたちで手術を受けた。
 そこで脳に電極を埋めこんだ結果、なぜか何もしゃべれなくなり、筆談しようとすると鏡文字になってしまった。その症状は少しずつ緩和されていったが、電極を機械につなぐ手術は失敗し、脳に電極を残したまま実験できないままとなった。
 それでも自身の体験を学界で報告することで、あるランキングで脳科学者のトップに選出されたという。研究倫理とかの判断基準には引っかからなかったのだろうか……


「カンフーエリオット」は、カナダでアクションスターを目指す男エリオットのドキュメントで、全長版は日本ではネットフリックスでのみ配信されているらしい。
 エリオットはキックボクシングのカナダ大会で7回もチャンピオンになり、自身の監督脚本主演で映画をふたつ完成させてきた。しかし部分的に紹介される映画は自主制作の基準でも安っぽく*1、サイン会を無料で開いても誰も集まらない。仕事もせずにカンフー映画ばかり見ているので、インターネットで出会った妻が生活をささえ、映画にも出演する。しかしさすがに映画制作も生活もつづけることが難しいので、エリオットは妻の願いで鍼灸師の学校へ行くことに。
 やがて鍼灸学校の研修と観光をかねて中国旅行に行き、少林寺に対戦をもうしこむエリオットだが、まともに足があがらないのを見て断られる……そこまで見せられた映画はたしかに演出や演技だけでなくスタントもつたなかったが、さすがにチャンピオンになるくらいなら格闘技くらいはそれなりにできるかと思っていた。
 そしてエリオットが日本人の血をひいているというプロフィールは嘘という証言が出て、6歳のころに九死に一生をえた体験談も嘘、さらにはキックボクシングの大会にも記録がないことも発覚。カメラの前で逆上したエリオットは姿を消し、今も行方がわからないという……
 薄々エリオットがどうしようもない人間らしいとは思っていたが、あまりに投げっぱなしの結末にモキュメンタリーを見ているような気分になった。仮にも映画を完成させてはいるし、エド・ウッドのような監督も歴史に残ってはいるのだが、虚言癖なエリオットの印象は暴走するクリエイターよりも詐欺的なプロデューサーに近い……同じように映画愛にあふれた自主制作『バーデミック』*2を紹介した時とは余韻がまったく異なる。映画愛というより自己愛が暴走した方向がたまたま映画制作だったというだけ。それが映画愛好にとどまらない悲哀と恐怖を感じさせた。


チェコ・スワン」は、同名のドキュメンタリ映画『チェコ・スワン』のダイジェスト。パワフルなアマチュア老女ダンス団がバレエを学びに押しかけてきて、有名なバレエ団の振付師と新進気鋭のソリストが感化され、たがいに好影響をあたえていく。

 物語では珍しくない類型だが、ダンス団にアマチュアなりの良さがあったので説得力は感じられた。技術はつたなくても息はぴったりあっていて、自作の衣装もきちんと動ける完成度。体を限界までつかうレッスンにも熱心についていく。
 今回のテーマ「おマヌケさん」らしい、他者の嘲笑を恐れないからこそ挑戦をつづけられる美しさがあった。

*1:巨大な樹木が倒れてきたところを奇跡的に生き残ったという6歳の体験談を再現した短い映像のほうが、よほど制作費がかかっていそう。

*2:hokke-ookami.hatenablog.com