法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『カレル・ゼーマン作品集』水玉の幻想/盗まれた飛行船

ジェネオンのアートアニメシリーズ「NAA」から発売された、チェコのアニメ作家の作品集。代表的な短編と長編をひとつずつ収録している。
http://www.geneon-ent.co.jp/anime/NAA/contents/hp0005/index00010000.html
その映像の一端は上記ページでも部分的に公開されている。聞いたことのない作家だったが、特撮効果でも活躍していたらしい。


『水玉の幻想』は、ガラス細工をもちいた10分間のアートアニメ。美しい音楽にのせて、透明なオブジェがなめらかに踊っていく。
チェコスロバキア伝統のボヘミアンガラスを活用した作品であり、わかりやすい美しさがある。ガラスを使っているため、動かして撮影することには困難がつきまとったことだろう。
ただ、どうしても空中に飛ぶカットで吊り糸が見えるのが残念だった。DVDでなければ気にならなかったかもしれないが。


『盗まれた飛行船』は、映像全体を銅版画のようにデザインした88分間の実写映画。少年たちの愚かな冒険と、飛行船を盗まれた大人たちの騒動を描いていく。
飛行船の宣伝に勝手に利用された少年たちが、怒って勝手に乗りこんで飛び去ってしまう。飛行船の制作者は困ってしまうが、非可燃性のガスで浮かんでいるという虚報を広めることに成功。しかし虚報を信じたスパイが飛行船の制作者のもとへ押しかける……
ジュール・ベルヌ作品が原作となっており、たしかにクライマックスにおけるネモ船長の登場は『神秘の島』のよう。しかし科学礼賛な語り口ではない。冒険心や新技術ではなく、虚栄心や偽情報で人々が動いていき、その醜態を笑うような物語だ。少年たちの冒険も描かれはしたが、全体としては共産圏らしい風刺劇にアレンジされていた。
おもしろいのが、あからさまに書き割りなセット。わざわざ線画のタッチをつけて人工性を強調している。カレル・ゼーマン美術館がアップロードした映像でも、その特異性が確認できる。

ただ期待したより特撮やアニメの分量が少ない。リアリティを削ろうとしている作品であるためか、ミニチュアの動きもオモチャ然としていた。