法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』3月は卒業の季節/深海潜水艦たった二百円!!

 途中で公開中の映画の宣伝映像が長めに流れた。先に観賞して真相の予想をつけやすい作品だと思ったが*1、この宣伝映像は派手な場面をつかってアクションの期待をもりあげつつ、かなり工夫してミスリードしている。観客を驚かそうとする努力に感心した。


「3月は卒業の季節」は、特売で菓子を買いすぎてしまった玉子が、ダイエットをしているため近所にくばってくるという。菓子を食べたいのび太たちは、秘密道具をつかってダイエットをやめさせるが……
 鈴木洋介脚本、高柳哲司コンテのアニメオリジナルストーリー。説明はないが、ダイエットしていたからこそ欲望に負けて菓子を購入したのだろうと思える導入が自然で良い。
 デジタル技術で複製しているにしても、ひとつひとつの卒業式でテーマごとにデザインが変わる学生を無数に整列させて、のび太の卒業にいたっては学帽をほうりあげる儀式に参加する新規作画。バカバカしいストーリーだが、ここまで映像リソースを投入されては認めるしかない。
 秘密道具で時々ある洗脳ネタと思えば人格が変容するブラックコメディの面白味も感じられるし、ジャイアンが洗脳されてなお秘密道具の機能にそって暴力をふるおうとする定番も洗脳がとけても気にせず暴力をふるう展開も予定調和だからこそ安心感がある。
 追いつめられたのび太が自分自身を意図せず卒業するオチも、ちょっと哲学的で意表をつかれて楽しかった。自分自身を卒業したのび太が優等生になるのは意外と安易で残念だったが。世界から消滅するくらいのブラックなオチを見たかったところだが、さすがに難しいかな。


「深海潜水艦たった二百円!!」は、巨大なカタログが部屋にとどいたことにのび太は驚く。本物の深海潜水艦は子供やドラえもんの買える値段ではないが、気分を味わうペーパークラフトは格安で……
 末期原作を2005年リニューアル以降で初アニメ化。コンテ演出は「リフトストック」*2で多種多様な技法をつかった大島克也が担当した。
 今回も、予告の時点でわかっていたとはいえ、線のシンプルなペーパークラフトであっても深海潜水艦を新規3DCGで動かしていたことに驚かされる。さらに途中の海底火山の煙まで3DCGで描画。ちょっと浮いた描写になっているが、結果的にオチの伏線として効果的。
 景色を海底のように変換するフィルターが扉を開け閉めする時点で作動していることにして、窓のついた扉ごしの景色が変化する様子を描写していたところもいい。剛田母が布団たたき*3でホコリを舞わせたのがマリンスノーあつかいされたり、原作にはない変換描写も自然に追加している。
 原作や過去のアニメ化と違ってしずちゃんは風呂に入っておらず、水やりしている花壇を潜水艦がふみつけようとしたことに怒って水をかけるように改変。これで充分にアクションサスペンスとして成立していて意外なほど問題を感じなかった。屋内で水たまりがあることを先に見せて原作読者に目配せしているところが良かったのかも。
 そして今回のジャイアンスネ夫のび太にバカにされただけの被害者だが、潜水艦を燃やした海底火山を骨川家のバーバキューにアレンジすることでしっぺ返し感が強調された。今の季節なら夏よりは自然だが、そもそも町中どころか田舎でも焚火が珍しい時代だし、悪くない改変だ。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:hokke-ookami.hatenablog.com

*3:以前に言及したように、現在では間違った使用法なのだが。 hokke-ookami.hatenablog.com