「リフトストック」は、ドラえもんが部屋でつえのような秘密道具をもって、いきなり床をすべりはじめた。どうやら重力の方向をコントロールできる秘密道具らしい……
2008年に「ころがる坂のつえ」*1と改題してアニメ化した中期短編を、原作と同題でリメイク。
今回は映像技法が目をひく*2。たとえば部屋から廊下に転がり出る驚きを背景動画とくみあわせて描写。以降も超俯瞰の公園や流背による速度表現など、いつになく多種多様なアニメ技法をつかっている。デジタル技術で背景をゆがめたり、2005年リニューアル時と違ってクオリティは低めなものの3D住宅街をつかったり、とにかくシンプルな設定から原作以上に面白い情景を生みだそうと工夫していた。
情景もおもしろくて、アニメオリジナルで登場する心臓破りの坂は、まるで細田守監督版『時をかける少女』のキービジュアルを思い出す望遠の長い坂。手描きでは難しいとされる自転車のアニメーションを地味に自然にこなしていることにも感心した。
終盤でのび太が意図せず坂をつくってしまう原作展開では、ゴミ捨て場に転がり落ちることで、致命的なケガをしない説明になると同時にギャグを強化。しかしギャグのためにはのび太の眼鏡がボロボロに割れる展開がきつすぎないかと思いきや、しずちゃんの背後からあらわれて蹴られる原作展開を、性加害とかんちがいされる描写ではなくオバケと思われる描写に改変したことで得心した。
ギリギリ耐える原作と違って落下してしまうことでタイムサスペンスも追加。ボロボロの姿でジャイアンたちの前にあらわれ、原作より自然にラストの一幕へつなげた。
「バトンタッチでおまかせ!自動返送荷札」は、スネ夫に漫画を借りようとするジャイアンが、まだ先に借りた人間から返ってないと怒る。同調したのび太だが、自分が返していない当人ということを忘れていた……
2005年リニューアル以降で初アニメ化。手間や時間はかかるが他人をとおして秘密裏に返せることが秘密道具のポイントで、どこでもドアなどにない良さがある。
基本的に発端から結末まで原作どおりで、秘密道具の機能もオチをのぞけばシンプルで単調だが、次々に人手をわたっていくバケツリレーのような面白味はあった。
アニメオリジナルの迷子のため、速達ではしご車の訓練やヘリコプター移動ですぐ両親に会える展開もテンポに変化を生んでいい。宛先を特定することさえできれば、両親がどこにいるかわからなくても届けられるというアイデアも納得。原作以上にこの秘密道具ならではの利便性がある。
「マリオネッター」が今回のドラドラMiniシアター。あやつるドラえもんとあやつられるのび太の眼鏡が光るカットなど、遊びが多くて楽しい。最後のかわいそうなドラえもんもかわいい。
*1:hokke-ookami.hatenablog.com
*2:先週の悪口「音痴ゴリラとごますりキツネ」を今回もつかうアレンジなどもあったが。