法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』

オカマバーの店長が手品に興味をもってメキメキと腕をあげ、店の名物になってTV番組のマジックコンテストでも優勝した。しかしすぐ後、道ばたに捨てられるように殺された。客として応援していたススキノの私立探偵が調査をはじめると、反原発運動の旗手として知られる革新政治家の存在が浮かびあがってくる……


2013年の探偵映画シリーズ第2作。スタッフは前作*1からそのままスライドした。物語の主軸として殺された「オカマ」は芸人のゴリが配役されているが、他のキャストにはトランス女性当事者の佐藤かよなども配役。

反反原発っぽい映画という評判だけ聞いていたが、たしかに反原発の革新政治家より原発推進の保守政治家に設定したほうがリアルだとは思った。警察や新聞をおさえたり、忖度で中心人物が守られたり、セクシャルマイノリティという情報が致命的になるのは、どれも保守政治家のほうがふさわしい。
劇中でも二世政治家なので、革新というより反主流保守なほうが説得力があった。北海道が舞台なので、鳩山由紀夫などがモデルでも良かったかもしれない。
しかし政治家が理想の達成のため私的な犯罪を矮小化しようとする構図を成立させるためには、上映当時の原発推進は「理想」や「信念」という印象が足りなかったとも考えられる。


サスペンスとしての重点は、クローゼットであることをせまられるセクシャルマイノリティがショービジネスでしか生計をたてにくい社会のパラドクスにある。
そこで真犯人が家父長制を体現したような存在で、その設定がさりげなく語られたことが伏線として作用しているのは良かった。ただ、主人公がそれに気づくきっかけが犯人しか知らないはずの情報について口をすべらすという、あまりにも古臭くて手垢のついた手法だったのは残念。一応、口をすべらせた後に説明をつけようとして、その解釈の選択肢を主人公がつぶしていく手順は踏んでいるものの、もっと工夫してほしかった。
忖度が暴走したことによって政治家が空虚な中心になった結末の構図も嫌いではないが、だからこそ真犯人ではなかったという真相で良しとはせず、捜査を遅らせたことによる混乱の責任はとらせるべきだろう。いや、語られた真相だけでは、政治家はそもそも捜査を止めさせるような必要はない。たとえば政治家もまた誰かたいせつな人……この映画でゴッドマザーのようにあつかわれている後援者を守ろうとする描写ひとつ足せば、たがいがたがいを信じられずに忖度しあって事件を複雑化させてしまった、という皮肉な構図にもできたのではないだろうか。