法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『探偵はBARにいる』

若い女性を妻にむかえた札幌の有力者が、ある雪の夜に自動車へつれこまれようとする少女を助けようと悪漢にたちむかった。1年後、札幌はススキノに拠点をかまえる私立探偵へ、不思議な依頼の電話がかかってきた……


2011年の日本映画。『相棒』で名前をよく見る橋本一監督が、東映東直己のハードボイルド小説を映像化したシリーズ1作目。

冒頭や中盤の大立ち回りなど、当時の日本映画のアクションとしてはがんばっている。雪がつもった街中という舞台はアクション映画全体でもけっこう珍しいし、漫然と撮影せずに高低差や屋内外といった舞台の変化をつけている。何より、私立探偵コンビと田舎ヤクザのいさかいというレベルにおさえていることで、世界水準にとどかなくても許せるスケール感になっている。アップカットが多くて殺陣の組みたてがわかりにくい難点もあるが、流血の多さなどの刺激はあって映画としては充分だった。
サスペンスとしては、後半のちょっとしたどんでん返しがポイントか。どのキャラクターも基本的に俳優にあたえられたイメージにそった人格が描かれていく予定調和のストーリー。そこにひとりだけイメージと異なる真実が映画として真実味あるかたちで証言され、電話の正体から事件の構図までひっくり返る。


この展開でかなり感心して、しっかりした女性という印象がある電話の声は、途中で証言者として1シーンだけ登場した外国人ホステスかもしれないと思った。
主人公がモノローグで「翻訳」する必要があるほどつたない日本語で、十年以上前の作品と考えても偏見に満ちた描写すぎないかと思ったが、客と探偵の前では愚かに演じて、見下されたり正体を知られないようにしていたと考えればトリックになる。電話の声が陰謀で殺された女性を名乗っていて、その女性がもっていた店のキャストがその外国人ホステスなので、探偵へ依頼する動機もしっかりある。
……などと考えながら視聴していたら実際の真相は残念ながら安易で、映画も期待より予定調和で終わっていった。苦味をおぼえるしかない探偵のハードボイルドなドラマとしては成立する結末だったので、ひとつの映画としてこれはこれで悪くない。しかし上述の、見ながら思いついた展開と比べて偏見を固定するような結末だったのは残念だった。