法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『デリシャスパーティ♡プリキュア』第45話 デリシャスマイル~! みんなあつまれ!いただきます!!

ブンドル団との戦いは終わった。和実たちは、料理で人々を楽しませる毎日へもどっていく。しかしそれは、クッキングダムの人々との、しばしの別れを意味していた……


途中からシリーズディレクター補佐となった村上貴之が演出をつとめ、作画監督は前回につづいてキャラクターデザインの油布京子と上野ケンが担当した。
まず前回の終盤でキュアプレシャスが巨大招き猫に乗ってフェンネルを追ったのは、まさに前回で求めたジンジャーからプリキュアへの継承だったのだな、ということは感じた。
hokke-ookami.hatenablog.com
また、最終回で和実ゆいが他人に提供したのがベジタブル丼で、どのような人でも食べられるからと説明したことが地味に良かった。明言はされていないが精進料理やハラールヴィーガニズムも視野に入れた描写だろう。それを受けとるなかに外国人らしい姿もある*1。おそらく幼い視聴者向けの作品では色々と説明が難しいだろうに、限界まで現代的に誠実に描こうとしたのだとは思える。
別離を感動的に描写しても同じエピソードで再会することはシリーズの常だが、エンディングの風景でモニターごしの会話をする静止画が映ったりするだけで、感動的な再会までは描写しなかったところが個性的。とはいえ、そろそろ異世界との完全な別離を描いて、通過儀礼のように終わる作品を見たい気分は残った。


最終回なので全体の感想も書いておくと、食事というメインテーマは、東映アニメーションとは思えない料理作画の完成度で表現するにとどまった。物語としては継承というサブテーマばかり重視されていた。
主人公の和実が祖母の言葉にもとづいて行動することと、今はいない祖母がナレーションをつとめるという作品フォーマット、さらに敵組織をつくった黒幕もまた今はいない師匠への執着で動いていたという根幹設定から、サブテーマへドラマが収束してくことは必然的だった。
しかしそれゆえ、料理とは何か、食事とは何かという方向の問題をほりさげることはできなかった。和実が祖母の言葉の限界を知る第39話は継承のドラマとあわせて完成度が高かったが*2、あくまで家族というちいさな共同体で心身をささえる食事にとどまった。料理という文化がどのように継承されてきたかを、長い時間と空間をこえて具体的に描くことはせず、国境をこえた関係といえばイースキ島という童話じみた架空の王国とのドラマだけ。美食を嫌悪してメインテーマと対立するナルシストルーは、子供が食事をこばむことを恐れてか、ただ食事を楽しむ方向へ改心しただけで終わった。命をつなぐために食事は必要不可欠というなら、貧困問題もストーリーにとりいれてほしかった。
メインキャラクターのモチーフを和洋中に設定したため、下手に料理と地域をむすびつけて和が象徴する主人公が中心となる嫌味をさけたかったのかもしれないが、それでも文化が国境や人種をこえて広まり影響をあたえあう料理を排外主義への抵抗として描いてほしかった。今の時代だからこそ、いや、いつの時代であっても。もちろん、一般的に語られる料理の歴史には多くの誤解や虚偽が混入しているし、地域ナショナリズムも刺激しかねないので、子供向けに描写するには慎重さが求められることもわかるが。
つまるところ、料理を全肯定するキャッチコピー「ごはんは笑顔」の限界までは超えられなかった、という感想になる。


ガールズアクションアニメとして全体を見ると、静かな立ちあがりと、じっくり仲間を集めていく展開は好ましかったが、よりによって不正アクセスによる東映アニメーション全体の制作遅延がかさなったのが痛かった。なかなか加入できない華満らんがネタキャラとして二次創作的な受容では美味しくなったが、中盤や終盤で描くべきことが簡単に流された一因ではないかと思う。
大人の仲間としてローズマリージェンダーをこえた尊敬できる男性として描き切ったこと、きちんと物語でも戦闘でも補佐として必然性がある位置を維持しつづけたことは良かった。もちろん大人が活躍することは子供の活躍をうばう問題にもつながるが、『大長編ドラえもん』を愛好したひとりとして、子供向け作品だからこそ気づいた大人が全力で矢面に立つという倫理観は好ましい。
またプリキュアにかぎらず集団ヒーロー物では、新規加入したメンバーが当初だけ大活躍しながら弱体化することが多いなか、キュアフィナーレは年長者として最後まで強力な戦士でありつづけたこと自体は良かった。プリキュア誕生以前の異世界のドラマの結果として生まれたイレギュラーな個人ヒーロー、ブラックペッパーの強すぎず埋没もしないバランスも悪くはない。
しかし先述の放送遅延があったためか、華満らんがキュアヤムヤムとして加入してからキュアフィナーレ加入までが短く、初期メンバーの個性を充分に活用できなかった惜しさは残る。生身で拘束を脱出できるほどのパワーキャラとして押し通すキュアプレシャス、シールドで防御するだけでなくサンドイッチすることで拘束もできるキュアスパイシー、麺状のカッターで遠距離広範囲を攻撃しつつ拘束もできるキュアヤムヤムと、誰もが役割を分担して活躍できる個性が設定されているのに、そのチームプレイの構築を楽しむことができなかった。
終盤の良好な作画回をのぞけば、キュアプレシャスとローズマリーのふたりだけで戦っていた時期が、最もヒーローアクションとして楽しかったようにすら思える。

*1:できれば黒人など、より多様な客を登場させてほしかったが。

*2:hokke-ookami.hatenablog.com