2006年に放映された、美少女ゲーム原作のTVアニメ。アニメーター出身で一時期はギャグアニメの暴走演出で知られた原博の唯一の監督作品。
先日の話数単位ベストテンエントリで言及したように、あまり良い評判を聞かなかった作品だからこそ、意外と堅実なTVアニメだったことに驚いた。
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まず、ヒロイン視点で1話から2話がはじまり、そのヒロインに突っかかるライバル少女がトラブルメイカーとして印象的。美少女ゲームでなければ百合キャラ化していきそうなくらい。主人公の妹とも古い幼馴染だったり、当初は少女たちのドラマという風合いが強い。
そうしてヒロインから放射状に人間関係が広がり、逆に主人公側の幼少期がはっきりしない謎で物語を引っぱる。主人公から放射状に人間関係が広がるハーレムアニメらしくなく、先入観よりキャラクターを公平に描いた学園ドラマになっている。
渡良瀬準という先駆的な「男の娘」キャラクターも、ヒロインがその情報を聞いて彼女ではないと安堵する描写があったりして*1、あくまで主人公の悪友キャラのバリエーションという感じが強い。
アートランド制作で、必ずしもハイクオリティな作画ではないが、わりとモブが思い思いのポーズをとって画面の各所に配置されているので、そのレイアウトもまたメインキャラクター以外にも社会があるのだという世界観の広がりを感じさせる。パンチラはちょくちょくあるが、フェティッシュな作画ではないので、昭和のような古い学園アニメの記号という感じにとどまる。
謎の転校生で物語をひっぱりはじめる第6話、そのモチーフとなる卵焼きの描写と、夕澄慶英コンテ演出*2がところどころ面白い。特に、屋上で転校生をさがすカメラワークが当時のデジタル技術の限界までがんばっている。卵液を混ぜる短い描写も、シンプルだがトレス線などの色彩設計がきちんとしていて、ちゃんと卵焼きに見える。そして満を持して転校生が距離をつめてきて、魔法というメインモチーフでの救済をあえて中断し、自身が崩した弁当の卵焼きに手をのばす……そこで弁当をはじめて食べる主観視点が、きっちり卵焼きを動かしていて感心。
どこまで原作ゲームによるものかは知らないが、最後までユーザー視点の主人公は群像劇を構成するひとり。ヒロインにとってヒーローだった過去は、その後に魔法の暴走を起こしたことが判明。それゆえ物語の序盤は魔法へ距離をとっていたが、魔法をめぐる策謀にたちむかい、魔法科に編入して制御していくことを目指す形で終わる。価値観の変化を描いたキャラクターとして主人公らしさがありつつ、あくまで周囲に引っぱられたキャラクターという立ち位置が面白い。
やや第10話から第11話にかけての大人が過去話をつづける説明エピソードは長いものの、魔法学校の成立が後半の陰謀劇と密接にからんでいて、その陰謀劇も魔法での救済を求める価値観のドラマになっていて、きちんと1クールで意外なくらい話がまとまっている。エブリデイマジック物としての完成度が高い。
恋愛で物語がほとんど駆動しないのも面白い。敵の中心にいる幼い少女は主人公の妹との友情……幼すぎて百合ともいえないが、じっくり深い……が過去に消えた姉と対比される現在の人間関係となる。先述の渡良瀬が女性という性自認でありつつ主人公の悪友として終始しても、恋愛が最優先ではないTVアニメの価値観なら違和感がない。