法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

話数単位で選ぶ、2022年TVアニメ10選

特筆したい視点があったり、埋もれそうなエピソードを掘りおこす企画のため、各作品1話ずつで順位はつけない。

ドラえもんドンジャラ村のホイ
ワールドトリガー(3rdシーズン)』第13話 1対1
『連盟空軍航空魔法音楽隊ルミナスウィッチーズ』第5話 まっしろリボン
『よふかしのうた』第1夜 ナイトフライト
リコリス・リコイル』#05 So far, so good
『デリシャスパーティ♡プリキュア』第35話 ここねとお別れ!? いま、分け合いたい想い
『賢者の弟子を名乗る賢者』第1話 わし、かわいい……
ドラゴンクエスト ダイの大冒険』第73話 炎の中の希望
後宮の烏』第十話 仮面の男
『4人はそれぞれウソをつく』第3話 サプライズ

1年間に視聴するTVアニメが約60作品くらいでは、同年に視聴できるのが約40作品くらいでしかなく、とりこぼしたタイトルが累積していく一方である。
話数単位で選ぶ、2021年TVアニメ10選 - 法華狼の日記
しかも、そうして視聴していない作品がたまっていくと、評判のいい作品ほど後回しにして、評価の平凡な作品を先に消化していく心理状態になっていく。
「つまんない映画を観たくない」という気持ちは強くないが、「つまんなくない映画を観るには準備がいる」という気持ちはよくわかる - 法華狼の日記
実際、今年に視聴したTVアニメで意外と感心したのが、まったく期待せず気軽に視聴した『はぴねす!』だったりもした。

とはいえ、普通に視聴して感心や感動をおぼえたエピソードはいくつかあるし、疑問点もふくめて紹介しておきたいエピソードもある。
特に今年はどちらかというと必ずしも絶賛はできない、良くも悪くも引っかかりをおぼえるエピソードを選ぶことにした。良作なら誰かが紹介することだろう。

ドラえもんドンジャラ村のホイ

環境問題への意識が日本社会で高まった時代の原作を、アレンジはほどこしつつも時代性はそのままにアニメ化。忠実すぎて、逃げ場が消えた世界情勢にあわせて原作で描かれた後日談も反映せず、過去の思想をそのまま現代まで保存したかのよう。
『ドラえもん』ドンジャラ村のホイ - 法華狼の日記
昨年にミヤシタパークの藤子Fキャラクターのオブジェを肯定的に紹介したことが悪い意味で印象に残っていただけに、借りぐらしする小人たちが深夜の公園で羽をのばす描写を原作から引いた時に制作者は何を考えたのか、と問いただしたくもなった。
しかして、そうした疑問もふくめて余裕なき2022年との対比として選びたいエピソードではあるのだ。

ワールドトリガー(3rdシーズン)』第13話 1対1

さすがに現実側の解説は動きがないが、戦っているキャラクターは全身で会話して動くので本当に見ているだけで楽しい作画回。服のしわの動きなどに中村豊フォロワー感あり。外岡が狙撃され爆発する直前に十字光が点滅したり、他にもちょこちょこそれっぽい部分がある。
前半のシャープな手描き背景動画をつかった市街地移動から、後半のダイナミックな背景動画をつかった隊長同士の決戦まで、枚数をつかいながらスタイルを変えたアクションの方向性で飽きさせない。
曲射される光線の空間の使い方、ゆっくり動くカメラワークなどで2017年の話数単位ベストテン1位に輝いた『Fate/Apocrypha』の該当回も思い出す*1。2ndシーズン2話では作画の良さを引き出すことに徹していた古賀豪演出が、今回は単独でもすごさを感じさせた。
射程距離が近いため、チームから孤立したメンバー同士が全力疾走で追いかけっこしながら撃ちあう局面が、FPSあるある。そこで味方を囮にすれば突貫してくる敵隊長を屠れた頂上チームが、あえて合流して追われることになりながら隊長同士の戦いに誘導して競り勝ち、チームを万全の状態にたもつ。そうして複数チームが削りあい、隊長同士の決戦に収束して決着した上で、頂上チームと主人公チームが互角で対峙する構図で次回……という引きの計算もすばらしかった。複雑に読みあうチーム戦を、あえて言葉での説明は次回にまわして、ぎりぎりまで人と人がぶつかりあう行動でドラマを描いた良さがあった。
あと、弓場隊長という突貫を選ぶキャラクターを見て、本質的には理性的でありながら状況に抵抗するため激情をふりしぼる人物を演じるのが檜山修之という声優なんだな、ということも思った。あまり声優そのものに印象をおぼえない自分でもそう思った。

『連盟空軍航空魔法音楽隊ルミナスウィッチーズ』第5話 まっしろリボン

白石道太演出。最後の新聞写真のドット感がいい。
公女と貧民が腹を割って話すという、序盤からいずれ来るだろうと思わせた物語をそのまま描いただけではある。しかし飛行機が怖い少女が、恐怖をまぎらわすため色々な折り紙を折っていて父と娘を対面させないまま繋ぐ小道具になったこと、そして結末で折り紙を映しながら戦わない兵士を正面から肯定する言葉が流れたことに、ふとヒロシマを想起した。
ただし作品自体は、戦闘ではなく慰問を選んだ魔女たちの物語から、謎の使い魔が敵側のもので歌をとおしてコミュニケーションを試みる展開になるかと思いきや、そこはあっさり肩すかしで終わったのが残念だった。やはりシリーズ1作目の方向性は完全リセットされたのか……
hokke-ookami.hatenablog.com

『よふかしのうた』第1夜 ナイトフライト

何かが始まる予感で興味をひきつつ、けだるく無意味な時間が流れる。それが深夜アニメを深夜に視聴する気分と同調する。
いかにも吸血鬼らしく蠱惑的で性的で、しかし一線をこえることのない相手。何もしないという豪勢な時間のつかいかた。
意味ありげで特に何もない不条理な深夜ドラマが放映されていた時代を思い出した。『孤独のグルメ』ですら料理とその論評という情報はある。
アニメを見る時に意味を求めていないか、摂取する情報としてコストパフォーマンスを考慮していないか……そのような自問自答をおこなうきっかけともなった。
この作品自体は次々に新たな吸血鬼やハンターを登場させ、良くも悪くも普通の中身がある少年漫画らしい展開になっていったが……

リコリス・リコイル』#05 So far, so good

1クールできちんと完結して、良くも悪くも作品自体は期待より小さくまとまった。しかしこのエピソードは一話完結の事件解決ストーリーの一編として、突出しないところに良さがあった。
命の危機にあった男が最期に故郷を見ようと帰還する、定番のシチュエーション。ただし主人公が目を離した隙に車椅子の依頼者が姿を消したりと、多少の説明はつけられるとはいえ、違和感ある部分が散見される。
そこから復讐の物語にいったん転調したかに見せて、気づけてもおかしくないトリック*2で、そうした物語に安易に共感する虚しさを逆説的に描いたオチが良かった。復讐対象となる暗殺者が主人公側と因縁がある設定が微妙に伏線として効果をあげてもいる。
アニメとしては鹿間コンテ演出で足場をつかったアクションが楽しい。体力のない人間がひとり現場に出ているツッコミどころも、芝居のテンポに変化をつける良さに転化していた。

『デリシャスパーティ♡プリキュア』第35話 ここねとお別れ!? いま、分け合いたい想い

新型コロナ禍のなか、対面で料理をわけあう楽しさを描こうと変身に「シェア」を組みこむような作品で、家族の会話をリモートですませることを肯定する結論に感心した。
『デリシャスパーティ♡プリキュア』第35話 ここねとお別れ!? いま、分け合いたい想い - 法華狼の日記
作品のメインテーマやメッセージを懐疑して異なる結論へ向かうエピソードは、やはり長期シリーズの後半で配置されてこそ出てくる味わいがある。その意味では児童向けアニメでは珍しい家族像から主人公のありようを根底から変化させた第39話も良かった。
『デリシャスパーティ♡プリキュア』第39話 お料理なんてしなくていい!?おいしい笑顔の作り方 - 法華狼の日記
ストーリーの完成度でいえば第39話を押したいところもある。しかし舞い落ちるイチョウなど、この作品では期待していなかったスタイルの作画や絵作りが楽しめたこともあり、紹介するエピソードとしては第35話を選ぶことにした。

『賢者の弟子を名乗る賢者』第1話 わし、かわいい……

異世界転生……厳密にはVRでつくられた世界の現実化*3……を描いた小説のTVアニメ。WEB小説愛好家のコミュニティでもアニメ愛好家のコミュニティでも反発や不満ばかり見かけたが、だからこそ現在の流行から外れた作品を象徴する第1話を選んだ。
作画の良さにたよれる制作体制でもないのに、後半ほとんどを台詞なしで明るい異世界をうろつきつづけた構成がすごい。わかりやすい出オチ作品でもなければ、複雑でいて凡庸な設定の説明を羅列するだけに終わりがちな異世界ファンタジーの導入で、段取りをばっさり削除してアニメ作品として再構築した。
以降のエピソードにおいても定番のかけあいにしかならなそうな場面は台詞を無音ですませて、移動などの変化にとぼしい場面はマスコットキャラクターにテロップを担当させる。
この作品からは、稚拙であってもアニメは絵で見せるものという原則的な意識が感じられた。それが原作に忠実にしようとするあまり棒立ちキャラクターの会話劇がつづきがちな現代アニメの問題を浮かびあがらせていた。

ドラゴンクエスト ダイの大冒険』第73話 炎の中の希望

作品全体については、2年間の放映で後半1年がラスボスとの決戦についやされる構成はどうかと思った。しかしそれだけ時間をつかえる作品ではあり、結果として主人公が不在のドラマが多く、贅沢なつくりと感じられた。
そこで選んだのが敵組織の罠を呉越同舟で脱するエピソード。特に後半の、生存をあきらめた中ボスを気にして主人公の相方の少年が脱出できなかった展開が印象に残った。意味のない行動だからこそドラマになる。
この中ボスは作品の当初こそ最大の敵と思われたが、やがて組織の中間管理職になり、このエピソードの時点では敵組織にも居場所のなくなった孤立した戦士になっていた。しかも強化改造の果てに寿命はすでにつきかけていた。主人公との決闘に敗北して、もはや心残りもなかった。そして自己犠牲で主人公たちを救おうとした。
ここで中ボスを救うことに、主人公たちにとって意味はない。敵の情報をひきだせるわけでもないし、救ってもすぐ死ぬことにかわりはない。それでもつい気にして自分の命を危機にさらしてしまった少年の、その愚かしさがいとおしい。たったふたりで業火にまかれて動けない状態なので、原作から引いた饒舌な長台詞も今回は不自然に感じなかった。むしろ内心を吐露しつづけざるをえない心情のドラマとして理解できた。

後宮の烏』第十話 仮面の男

ベタネタを油断したところに挿入した第九話もちょっと良かったが、今回は怪異譚としての絵作り音作りが良かった。
あまり原作が映像化に向いていないのか、基本的に説明だよりで日本語としては台詞で意味をとりづらいエピソードが多い。しかしこのエピソードは、怪異が向かってくる主観視点の仮想現実ぶりを劇中人物と共有できる面白味があった。
ふりむくたびに頭髪がゆれる作画が多く、シンプルで無駄のない作画が基本のこのアニメで、登場人物に実在感があったところも良い。

『4人はそれぞれウソをつく』第3話 サプライズ

姉に命じられて入れかわっている少年や、忍者や超能力者や異星の革命勢力など、秘密をかかえた4人の日々を描いたシチュエーションコメディ作品。
このエピソードでは眼鏡少女がルッキズムにさらされ、屋台のサービスを受けられない。それを元気づけようと、胸のおおきさを女装少年が絶賛して、逆にドン引きされる流れが痛々しくて引き笑いした。
全体的に性別を誇張したギャグの多い作品で、けっこう男性視聴者としても引っかかるところが多いが、ところどころ原作者は女性ではないかと感じさせるところがある。社会の偏見に加担して嘲笑するギャグに見えかねないところもあるが、そうした偏見が傷つける痛みを描いた笑えない風刺と解釈したい。


例年は、あまり感心できなかった作品のなかでも、これだけは悪くないというエピソードを選んできた。しかし今年は思うところがあって作品全体もエピソードも肯定しづらいところがあるものを選んだ。
ひとつは原作どおりに作ることは本当に正しいのか、特に台詞を逐語的に声優へしゃべらせることは良いのか、という疑問。特に『ドラえもん』と『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』は、ただ原作どおりに映像化するだけでは初出のニュアンスを誤解させないか、と思うことが選んだエピソード以外にもある。原作は未読の『後宮の烏』も、映像化するならキャラクター設定のテロップ以外の、もっと映像として魅力が生まれる工夫が必要ではないか、と思うことが多い。逆に『4人はそれぞれウソをつく』は、ツッコミを入れずにつきはなす風刺は、ネタをベタに誤解されないかと懸念をおぼえるところがある。
もうひとつは、リソースを集中させて初回から最終回まで安定させた作品と、低空飛行を終始つづける作品の二極化が進み、エピソードひとつが突出した作品というものが減っていること。同じ東映アニメーションの長期作品だからこそ、『デリシャスパーティ♡プリキュア』と『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』を見比べると映像面で色々思うところがある。それゆえ、同じように少し突出したエピソードを選ぶなら、良い作品からよりも良くない作品からのほうが、企画の趣旨にあうのではないかと感じている。これを書いていいかどうか自体、悩むところだが。


他にいくつか印象に残ったものとして、ストッキングを頭からかぶって道化となった主人公の吐露とバレエがインパクトあった『ダンス・ダンス・ダンスール』第3話、総力戦のため見せ場をちらしているシーズンのなかでは突出していた『僕のヒーローアカデミア』第117話、主人公の一挙手一投足におどらされる異世界人の滑稽譚へとドラマの重心がうつったことを象徴する『オーバーロードⅣ』第3話、能力を適切に評価され活用できる組織に所属する意味をアニメオリジナルのアルバイトで描いた『怪人開発部の黒井津さん』第12話、撮影のためどのようなコスプレをするか選ぶだけなのに受け手の反応とあわせて楽しい『神クズ☆アイドル』第8話あたりがエピソード単位では印象に残った。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:実は身体を動かすことに不自由はないという古典的なトリックの可能性までは考えていた。

*3:TVアニメでも『オーバーロード』などの先行作品がいくつかあるが、定着したジャンル呼称はないのだろうか。