法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『いぬやしき』

家族から孤立して、会社でも居場所のない中年男、犬屋敷がいた。犬屋敷は迷いこんできた犬を妻に命じられるまま捨てにいったところ、夜の公園で獅子神という若者を見かける。その時、空から何かが落ちてきた……


奥浩哉原作、佐藤信介監督という『GANTZ*1のタッグによる実写映画。地球外技術で機械化された男たちの全10巻にわたる闘争を、VFX満載の1作品としてまとめている。

中年男の犬屋敷と青年殺人鬼の獅子神を、それぞれ木梨憲武佐藤健が演じることで、まるで『仮面ノリダー』VS『仮面ライダー電王』のような構図の面白味もあった。

全体としては、現状の技術と制作費で可能なことをスタッフが見極めて、最も完成度を高める配分には成功しているとは思った。それゆえ良くも悪くも意外性は足りなかったが。


まず映像面だが、冒頭の家族ドラマが意外なほどよくできている。日本映画では破格の予算のおかげだろうか、引っ越した家のロケーションから見事で、せまい庭に主人公がむきあう圧迫感ある構図に映画タイトルが重なるカットには感心した。俳優の芝居も達者でカット割りもテンポ良く、映像もそつがないおかげで、公園シーンまで映画ジャンルをあらわす描写がなくても我慢できる。
他に良かったのはガンアクションで、佐藤健の身体能力が活用されていたし、ロケの地形を活用した立体的な攻防や、実在感あるセットが破壊される光景は見せ場になっている。そうした肉体的な表現がしっかりしているからこそ、人間の肉体から機械が飛び出す露骨なVFXも異化効果として楽しい。
ただし、VFXは技術的には予想の範囲内で、期待ほどではなかった。特に背景は全体的にデジタル感が露骨で、高層ビル街のモデリングからして直線的で箱のよう。群衆描写を省力するためか、獅子神の無差別殺人によって人々が建物に隠れてから本格的な戦闘になるわけだが、その工夫の結果として3DCG製の街から生活感が消え去った。
破壊シーンも必要最低限の技術でつくられており、『GANTZ』のように要所でミニチュア特撮をつかっているわけでもないため、見せ場として楽しめるほどではない。とはいえ建物の壁にはりついて直角に立つ描写は、実写作品のビジュアルとして新鮮味があったし、映りこむ看板のおかげで実在感もあった。


原作は冒頭を試し読みしたくらいだが、ノイタミナ枠のTVアニメを視聴した時は中年ヒーローとダークヒーローのシリアスパロディとして楽しめた。
2017年秋TVアニメ各作品について簡単な感想 - 法華狼の日記

ひとりの藤子F読者としては、『中年スーパーマン左江内氏』VS『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』が楽しくないわけがない。『GANTZ』みたいに謎で引っぱらず、あっさり最初に設定を提示しておいたのも良かった。

比べると映画は獅子神のダークヒーロー性を後退させ、与えられた超技術で暴走する若者として、犬屋敷との対比を強調している。家族で孤立感をかかえる理由も対照的で、恵まれないからこそ超技術で隠れたヒーローになった自分に自信をもつ犬屋敷と、恵まれているからこそ疎外感をかかえて自傷的に孤立していく獅子神の対比が、短い上映時間のなかでもたがいのキャラクターを明確化していく。
また、結末はTVアニメとは完全に異なる。超技術の末路まで徹底的にオチをつけたTVアニメと違って、映画は闘争こそ一区切りがついても生活に終わりはこない。しかし冒頭の日常描写との対比として、きちんとドラマとして完結した印象は充分にあった。もともと『GANTZ』のような謎かけで話を引っぱる構造ではないため、超技術をもたらした存在がまったく描かれないまま終わっても消化不良とは感じなかった。
自由を象徴する鳥が冒頭で空を飛び、物語のなかで犬屋敷と獅子神の選択を象徴する存在になる。そして超技術で空を飛ぶふたりは落下とともに異なる結末をむかえる。飛ぶ姿を見せない男と空に消えた男。これはそういう物語だった。