法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 season24』第2話 死して償え~白骨は語る!右京の奇策

 人間国宝の屋敷の蔵から発見された白骨死体だが、弟子の告白によると蔵に住みついていた物乞いが家に侵入して暴れられたので返り討ちにしたのだという。人間国宝の判断で事件を隠蔽したが、十五年も前の出来事なので多くの罪は時効になるはずだし、返り討ちなので正当防衛になるはずだと開き直る。しかし杉下は弟子が自身の告白内容を周囲に聞かせたことが、口裏あわせが目的だろうと推理した……


 前回*1につづく初回拡大スペシャルで、輿水泰弘脚本、橋本一監督という制作体制も同じ。
 自白から真相が二転三転して、杉下による講談仕立ての推理映像から屋敷の人間が追いつめられて致命的な失策を犯すところはミステリドラマ的ではある。その致命的な失策が、口裏合わせをしていた人間が会話をしていたところを集音器で録音されたところは、ミステリドラマで犯人が意味もなく真相を声に出してしまう描写のパロディのようではあった。
 しかし、けっこう複雑で偶然が重なった経緯と、せっかく蔵のある閉ざされた屋敷という特殊な舞台なのに、表層の事件が地味な殺害事件ふたつでしかないところが残念。物乞いが隠れていたことは早々に明かされるが、その物乞いが秘密裏に屋敷を徘徊していたことが怪奇現象と誤認されたり、不可能状況からの盗難事件を発生させることもできただろうし、ふたつめの殺害事件を起こした弟子が破門された理由を盗難事件の犯人として疑われたことにすればふたつの事件の関連性も強固になるだろう。ふたつめの殺害事件にしても、真相からすると密室殺人のように演出することは可能なはず。
 あえて謎めいた事件にすれば、それに折りこむように伏線を入れやすいだろうに、あまりに偶然の出来事が多すぎて、手がかりが少ないのに杉下が推理できたことの説得力も欠けている。講談師の世界を描写した時間がもったいない。


 また、ふたつの殺害事件の真相があばかれて、新しいほうの事件の冤罪が晴らせたわけだが、矛盾するような行動をとっていた検事総長について杉下がおこなった推理が釈然としない。
 いや、かつて死刑反対論者だったという伏線があるのはいいし、その思想を検事総長として実現するため冤罪と明らかになることを前提に死刑を執行して制度への批判を呼びさまそうとする動機もフィクションとしては悪くない。観念したように記者会見で自白すると語る検事総長を、それはテロリストに宣伝する機会を与えることになると止める杉下の判断も理解できる。
 問題は、死刑制度そのものの是非は最後まで物語の要点ではなかったので、検事総長の真意がとってつけたようになっていること。物語の発端となる死刑囚と結婚したジャーナリストにしても、冤罪による死刑を止めたかっただけで、制度そのものは重視していなかった。死刑制度に賛成にせよ反対にせよ深い関心があったから死刑囚と接触して結婚までした、というドラマにすれば良かったのではないか。くわえて事件の舞台となる屋敷も、講談師などではなく死刑制度に反対する弁護士の事務所や宗教の施設のような舞台にすれば、本筋の殺害事件と死刑制度の是非をもっと深く関連づけられたのではないか。


 全体として、個々のアイデアはミステリとして面白くできるポテンシャルがありそうなのに、きちんと調理せず使い捨てていったところがもったいない。
 今回にかぎらず、あえて正面から社会的なメッセージにとりくんだほうが、エンターテイメントとしても濃くなってドラマに深みが出ることも多いのではないだろうか。