法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』

 別世界の存在と同じ名前をもち、走るために生まれてきた存在、ウマ娘。そのひとりであるジャングルポケットは、フジキセキの走りに憧れてトレセン学園に入り、同じトレーナーのもとで走る。しかしすでにフジキセキは競技から引退しており、競技でジャングルポケットを圧倒したアグネスタキオンも休場するという……


 2024年5月に公開されたアニメ映画。原作ゲームを展開するCygamesがたちあげたアニメ制作用子会社CygamesPicturesの、初めての劇場作品。ショートフィルムの監督などで経験を積んだアニメーター山本健にとっても、本格的な長編初監督作品にあたる。

 もともとCygames関連アニメは潤沢なリソースを映像から感じられることが多いが、この映画は特に手描きアニメならではの自由奔放なアニメーションが楽しめて、いわゆる作画アニメらしさがある。
 知らなかったので冒頭のナレーションパートを吉成鋼が担当していたことからして驚いた。WITスタジオが参加して原画に前並武志がいるあたりは、半年間をアクション満載で走りぬけたTVアニメ『真・侍伝 YAIBA』への助走のようでもある。


 物語についてだが、ゲームは遊んでおらず競馬の歴史にもくわしくないので、まったくウマ娘の関係性は知らないまま見た。しかし、どのようなドラマを抽出したのかは見当がつく。そもそも話運びで隠すどころか前振りを多く入れているので展開に意外性はない。
 それでも、その架空スポーツのために全人生をささげる存在たちの架空スポーツアニメとして存分に楽しめた。むしろ過去のアニメシリーズと違って、競馬を擬人化して走らせる奇妙な世界観を深掘りするように、別世界の存在をオカルトやSFのように想定するキャラクターがメインにいるところも面白い。
 演出としては、説明台詞どころか勝敗を明示する説明描写すら少なめで、TVアニメの劇場版ではなくひとつの完結したアニメ映画を見ている感覚があった。細かいところでは、ウマ娘のあいだに垂れさがる柳の枝で視界をさえぎり、動ける者と止まった者の境を感じさせる描写が印象的。幽霊のように不穏な空気がただよい、画面に緊張感が生まれている。