杉下右京は人間国宝の講談師の内弟子にもぐりこみ、人間国宝の娘のカルチャースクール講師に亀山薫が学んでいた。その人間国宝の息子が15年ほど前に殺された事件について、犯人は強盗をおこなったが殺人はおこなっていないらしい冤罪疑惑があると知ったため、潜入したのだ。
そして怪しい南京錠がかけられた蔵に目をつけた杉下は、無理やり入りこんで床下から白骨死体を発見する。お香が焚かれて敬意をはらわれていたような死体は、いったい誰が何のために……
初回拡大スペシャルの前半で、輿水泰弘が脚本を担当。映画『国宝』がロングランヒットをつづけているさなかだが、さすがに東映の便乗速度から考えても映画とは無関係だとは思う*1。
死刑判決が出る事件のわりには殺害数が多いわけでもなく、傷こそ多くても利己的な強盗殺人ではフィクションとして凶悪さを感じづらい。しかしなるほど、人間国宝がかかわる事件にすれば地味な事件でも初回SPらしく権力者や有力者のキャラクターを複数かかわらせることができるのだな、とは思った。だとすれば一種の三題噺のように初回スペシャルの配役を考慮してつくったシチュエーションなのかもしれない。
しかし純粋にドラマとして面白味を感じなかった。先述のように過去の事件に特異性が感じられないし、講談師描写の知られざる知識を描いたりもしないので異なる文化を覗き見する面白味もない。
刑事ドラマなりのリアリティにも欠けていた。いくら特命係が特異な立場とはいえ、名前を偽って潜入捜査することが認められる状況とは思いがたいし、何度か有名人となった杉下の正体が長期間にわたって気づかれないことを前提とした作戦は知的と思えない。演出としても、パーティーの最中に弟子として並んでいる杉下にスマートフォンで連絡するシチュエーションに映像として無理がある。堂々とスマートフォンを見ていたのに、真横の兄弟子にとがめられないどころか、まったく別の口実で杉下が中座して認められる。たとえば家族の危篤状態をスマートフォンで知らされたと説明すれば、少しは映像に説得力が出たのではないだろうか。
*1:とはいえ『ジュラシック・パーク』の原作人気と映画監督の名前からヒットを予測して映画公開の前年に特撮ヒーロー番組『恐竜戦隊ジュウレンジャー』をつくった東映のことだから、他社のヒットを予測して当てていった可能性が皆無ではないところが恐ろしい。
