法華狼の日記

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担当回が「作画崩壊」になるアニメ演出家の佐々木純人へのインタビュー記事と、それに対するアニメ関係者の反応まとめ

名探偵コナン』で否定的に広く話題になった演出家が、スケジュールが崩壊した状況でも請ける立場からの業界観をねとらぼのインタビューにこたえていた。
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スケジュールがなくても引きうけるため仕事がとぎれないこと、ツイッターでは露悪的に自虐的につぶやいていること、それがスタジオに所属する匿名アニメーターの補足とあわせて赤裸々に語られた。

作品のできが「マイナス100万」ぐらいだったのを「マイナス10万」ぐらいまで引き上げるのは外部からは見えづらいんですが、一緒に仕事をした監督やスタッフからはそこをちゃんと評価してもらってます。

インタビューでは安価で低質な発注先として出てくる海外下請けも、発注額が上がった現在では費用の抑制よりも人員確保のためにつかわれ、同じように劣悪なスケジュールで発注されると聞く。

今の相場は1カットの原画が5000円以上。このくらいでやっと、何も使えない上がりを出してくる海外のなんちゃってアニメーターに渋々発注出来ます。国内はさらに高く、しかも他社の作品スケジュールの細い隙間に作業を頼めるかどうかです。

ちなみに元請けの要求が低いため質の低い完成形が視聴者にさらされ話題となった『名探偵コナン』だけでなく、良好な作画で話題になった『映像研には手を出すな!』に参加したりもしている。

第6話を小川円と共同で演出しているだけだが、その登板がスケジュールの遅れのあらわれだとすると、監督の湯浅政明が当時にツイッターで苦しみを吐露したことと関係があるのかもしれない。


さてインタビューだけでも充分に興味深いが、記事に出てくるのは一方の演出家と少数の匿名アニメスタッフの証言だけ。
そこでツイッターでアニメ関係者の反応をさがすと、一度仕事を発注した元制作進行の体験談があった*1。おおむねインタビューどおりの仕事ぶりだったらしい。

他に下記の元制作進行が、多すぎる作監が無駄という意見には同意しつつ、二度と仕事をしたくないという知人評を証言していた*2。仕事の腕が悪いのか*3、仕事する状況そのものが嫌なのかは、よくわからない。

実名の元制作進行では、市議会議員の大隈真一が仕事内容を「怖い」「めまいがしてくる」と率直に語りつつ、制作現場に対する意見は「至極まっとう」と評していた。


演出家では、佐々木と同じように同時期の複数作品へスポット登板することが多い白石道太が、他の人や会社が同じように仕事をすることは難しいだろうと評していた。

制作がとどこおった『Wake Up,Girls!』の新作劇場版で作業をひきついだ演出家でもある。視聴者からは近いように思える立場だからこそ、より困難が見えるのかもしれない。
その『Wake Up,Girls!』シリーズでキャラクターデザインをつとめ、やはり「作画崩壊」という作品評を受けていた近岡直は、リアルと誇張の両方を感じたという。

ただ、やりとりのなかで下請けでは普通なのだろうとも想像しているので、露悪的だったり自虐的だったりする部分を「誇張」と評したのかもしれない。


2018年時点で「作画崩壊」の実態を「制作ラインの構造的崩壊」と説明*4していたアニメーターで演出家の葉摘田緒も、ふたつのアカウントで反応していた。

上記ツイートをリツイートしたアニメーターの西井輝実は、マネジメントの問題から「アニメゴロ」が生まれる問題を指摘している。

ベテランアニメーターの香川久と大野勉は独立したツイートで、アニメ業界で一般的な事実であることを指摘しつつ、一方の主張では個別の現場は判断できないと留意。

アニメーターで、同じような仕事をしたことがあると語るのが、『新劇場版ヱヴァンゲリヲンQ』などにも参加し、現在は個人活動として後進を指導している室井康雄

フリーランスアニメーターの小谷杏子は、現在は腕のいいアニメーターが拘束料でかこいこまれる*5ため金銭だけでは逼迫した現場が解決できないことや、ツイッターで原画をさがす問題にもふれている。

アニメーター出身の監督で、ジャニカ元理事でもある森田宏幸は、アニメ業界を描いた作品と比べて実態に即していることに「癒された」と語った。

佐々木のような人物が請けるから問題が維持されるという意見には、ひとりが降りるくらいでは業界が改善に動くことはなく、組合をつくって共同で降りるしかないと指摘している。

*1:あくまで匿名だが、数年前に辞めたツイートの他、何度か元制作進行としてツイートをしているし、一定の信頼はおけそうだ。

*2:はてなアカウントはid:unamuhiduki12で、はてなブックマークで同期したコメントをしている。

*3:一般論として、インタビューにあるようにマイナスを減らすことが得意であっても、高いプラスを出すことが得意とはかぎらない。

*4:こちらのツイートのツリー全体を参照のこと。

*5:これ自体は業界の改善のひとつではあるだろう。この種類の話は視聴者の立場でもよく見るようになった。