『名探偵コナン』で否定的に広く話題になった演出家が、スケジュールが崩壊した状況でも請ける立場からの業界観をねとらぼのインタビューにこたえていた。
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スケジュールがなくても引きうけるため仕事がとぎれないこと、ツイッターでは露悪的に自虐的につぶやいていること、それがスタジオに所属する匿名アニメーターの補足とあわせて赤裸々に語られた。
作品のできが「マイナス100万」ぐらいだったのを「マイナス10万」ぐらいまで引き上げるのは外部からは見えづらいんですが、一緒に仕事をした監督やスタッフからはそこをちゃんと評価してもらってます。
インタビューでは安価で低質な発注先として出てくる海外下請けも、発注額が上がった現在では費用の抑制よりも人員確保のためにつかわれ、同じように劣悪なスケジュールで発注されると聞く。
今の相場は1カットの原画が5000円以上。このくらいでやっと、何も使えない上がりを出してくる海外のなんちゃってアニメーターに渋々発注出来ます。国内はさらに高く、しかも他社の作品スケジュールの細い隙間に作業を頼めるかどうかです。
ちなみに元請けの要求が低いため質の低い完成形が視聴者にさらされ話題となった『名探偵コナン』だけでなく、良好な作画で話題になった『映像研には手を出すな!』に参加したりもしている。
第6話を小川円と共同で演出しているだけだが、その登板がスケジュールの遅れのあらわれだとすると、監督の湯浅政明が当時にツイッターで苦しみを吐露したことと関係があるのかもしれない。
さてインタビューだけでも充分に興味深いが、記事に出てくるのは一方の演出家と少数の匿名アニメスタッフの証言だけ。
そこでツイッターでアニメ関係者の反応をさがすと、一度仕事を発注した元制作進行の体験談があった*1。おおむねインタビューどおりの仕事ぶりだったらしい。
佐々木さんとは昔制作進行していた時1度だけ演出の仕事をお願いした事がありますね。
— CLAN@ライブ最高!声援出せる日を願う! (@seisaku_CLAN) 2022年10月3日
確かに絵をかける方ではなかったですが演出としての仕事はきっちりされてました。
夜中にカット持って行ってすぐ見てほしい!って言っても対応して頂けたからほんとありがたかったです。
https://t.co/I8X67pMdzz
他に下記の元制作進行が、多すぎる作監が無駄という意見には同意しつつ、二度と仕事をしたくないという知人評を証言していた*2。仕事の腕が悪いのか*3、仕事する状況そのものが嫌なのかは、よくわからない。
作画監督って画の統一や不出来な画の引き上げをやるわけだけど、300カット程度のテレビアニメ1話で20人作監とか1人15カットしか担当しない。もうそいつらに原画を描かせたほうが無駄がないはずでは? / “アニメ界の“最終防波堤” 「作画崩壊」でトレンド入りした演出家に直…” https://t.co/VZLJHZRxer
— ウナム日月 (@unamuhiduki) 2022年10月3日
ワイの知り合いのアニメ関係者が「この人知ってますよ。二度と一緒に仕事しませんが」と言ってて草だったんだよな… / “アニメ界の“最終防波堤” 「作画崩壊」でトレンド入りした演出家に直撃インタビュー 「作画監督が10人とかいるアニメは無駄の極み」” https://t.co/XHIEvqD1ql
— ウナム日月 (@unamuhiduki) 2022年10月3日
実名の元制作進行では、市議会議員の大隈真一が仕事内容を「怖い」「めまいがしてくる」と率直に語りつつ、制作現場に対する意見は「至極まっとう」と評していた。
しかし、制作現場についての佐々木さんの言ってることは至極まっとうです
— 大くま真一⚙日本共産党🌾多摩市議会議員🐻赤いコミュニスト【物理】🐻 (@ookumasinniti) 2022年10月2日
演出家では、佐々木と同じように同時期の複数作品へスポット登板することが多い白石道太が、他の人や会社が同じように仕事をすることは難しいだろうと評していた。
さすがにここで採り上げられているやり方で作り続けることができる人、会社は他にまずないと思うけど、条件がそろってるんだろう。https://t.co/yI3vs4t4ri アニメ界の“最終防波堤” 「作画崩壊」でトレンド入りした演出家に直撃インタビュー 「作画監督が10人とかいるアニメは無駄の極み」
— シン・権田原米三 (@ShiraishiM1970) 2022年10月2日
制作がとどこおった『Wake Up,Girls!』の新作劇場版で作業をひきついだ演出家でもある。視聴者からは近いように思える立場だからこそ、より困難が見えるのかもしれない。
その『Wake Up,Girls!』シリーズでキャラクターデザインをつとめ、やはり「作画崩壊」という作品評を受けていた近岡直は、リアルと誇張の両方を感じたという。
実際どんな仕事してるのかは一緒に仕事してみないとなんとも言えないところだけど
— すなまる (@suna_chika) 2022年10月2日
記事自体はリアルさと誇張もあって面白かった。
どこまで本当のことなのかとドキドキしながら読めた。
これは佐々木という方の演出なのか?https://t.co/u5YND3AODI
ただ、やりとりのなかで下請けでは普通なのだろうとも想像しているので、露悪的だったり自虐的だったりする部分を「誇張」と評したのかもしれない。
下請けはこういう風にしないと稼げないのでこれが普通なんだろうなーと思います。
— すなまる (@suna_chika) 2022年10月3日
2018年時点で「作画崩壊」の実態を「制作ラインの構造的崩壊」と説明*4していたアニメーターで演出家の葉摘田緒も、ふたつのアカウントで反応していた。
RT これ凄い。わかる。わかるけども。
— 葉摘田緒@絵コンテ・演出 (@hatsumidashiyo2) 2022年10月2日
コナンで物議を醸した件です。アニメ制作現場のリアルを覗きたい方は一読を。 https://t.co/rVzCG1SVnW
— 葉摘田緒@ (@hatsumidashiyo) 2022年10月2日
上記ツイートをリツイートしたアニメーターの西井輝実は、マネジメントの問題から「アニメゴロ」が生まれる問題を指摘している。
アニメ業界は伝統的にモメンタム(やる気?)の代わりに低賃金で物量上げさせようとするからギャラ泥棒みたいなアニメゴロが大量に発生する仕組み。いい加減マネジメントを学習せんと無駄が多すぎて詰むよね。
— 西位 輝実 NlSHII Terumi (@NishiiTerumi) 2022年10月2日
ベテランアニメーターの香川久と大野勉は独立したツイートで、アニメ業界で一般的な事実であることを指摘しつつ、一方の主張では個別の現場は判断できないと留意。
アニメ界の“最終防波堤” 「作画崩壊」でトレンド入りした演出家に直撃インタビュー 「作画監督が10人とかいるアニメは無駄の極み」(1/5 ページ) - ねとらぼ
— 香川久 Hisashi Kagawa (@DanngoDaisuki) 2022年10月3日
読んだ!
アニメ作ってる色んなセクションの色んな視点からの見方があるだろうな〜🤔
この人の事は知らないけど… https://t.co/ENeSAk24Q2このような便利屋と呼ばれる人たちが居ないと納品出来ないのも確かだし、作画監督が10人居ないと納品出来ない事があるのも確か🤔
— 香川久 Hisashi Kagawa (@DanngoDaisuki) 2022年10月3日
大ラフ原画を動画が中割りして色着けて撮影した物が放映する事は出来ないだろうし…商業アニメ制作に致命的な問題があるのは確か
これは業界内外の人に読んでもらいたい。
— 大野 勉 (@ohno_ben) 2022年10月2日
正にこれが今のアニメ制作の現場の状況よ( ゚Д゚)
アニメ界の“最終防波堤” 「作画崩壊」でトレンド入りした演出家に直撃インタビュー 「作画監督が10人とかいるアニメは無駄の極み」 https://t.co/qBndLW2nZI @itm_nlabより但し、これは一方からの話しでしかないので、発注側や実際にこの方と関わった事がある方の話を聞いた上で、最終的な判断にはなると思う。
— 大野 勉 (@ohno_ben) 2022年10月3日
ちなみに、このスタジオに限らず、「あのスタジオに頼めば、取りあえず(質はどうあれ)色が付く(完成する)」という話はむかーしから耳にしてる…。
アニメーターで、同じような仕事をしたことがあると語るのが、『新劇場版ヱヴァンゲリヲンQ』などにも参加し、現在は個人活動として後進を指導している室井康雄。
リアルなアニメ業界話。
— アニメ私塾 (@animesijyuku) 2022年10月2日
僕も似た理由でコンテ、演出、作監、2/3レイアウト、1/2原画とかやってました。
アニメ界の“最終防波堤” 「作画崩壊」でトレンド入りした演出家に直撃インタビュー 「作画監督が10人とかいるアニメは無駄の極み」 https://t.co/SVPp6hyLa6
フリーランスアニメーターの小谷杏子は、現在は腕のいいアニメーターが拘束料でかこいこまれる*5ため金銭だけでは逼迫した現場が解決できないことや、ツイッターで原画をさがす問題にもふれている。
アニメ業界内の人が問題だと思っている事の全てがつまっているインタビューでした。
— 小谷杏子 (@koni_ko222) 2022年10月3日
アニメ界の“最終防波堤” 「作画崩壊」でトレンド入りした演出家に直撃インタビュー 「作画監督が10人とかいるアニメは無駄の極み」 https://t.co/rB71RE7yjPただ、お金を用意すれば解決する時期は既に過ぎていて、数年前から拘束料(実作業分とは別に出る月給のようなもの)で上手な人もそうでない人も元請け数社が囲うようになってしまったので(その会社を責めてません)、後から追うように他の会社が拘束料上乗せを打診しても引き受け手が居ないのが実情です。
— 小谷杏子 (@koni_ko222) 2022年10月3日
中間スタッフが揃えられない状況なのに視聴者だけでなくクライアントや監督の求めるテレビ作品のクオリティは異常に高くなっていて、原画を担当するのはツイッターで探してきたド素人ばかり、それをそれなりに技術のある作画監督と演出が全て描き直して観れるものにしている、という状況です。
— 小谷杏子 (@koni_ko222) 2022年10月3日
アニメーター出身の監督で、ジャニカ元理事でもある森田宏幸は、アニメ業界を描いた作品と比べて実態に即していることに「癒された」と語った。
なんか話題になってるのはこの記事か。
— 森田宏幸 (@Morita626) 2022年10月2日
シロバコやなつぞらは辛くて見られなかった私だが、この記事は癒やされて読みました。まちがいなく自分が知ってる業界の話だ。
アニメ界の“最終防波堤” 「作画崩壊」でトレンド入りした演出家に直撃インタビューhttps://t.co/ebW86zbJY7 @itm_nlabより
佐々木のような人物が請けるから問題が維持されるという意見には、ひとりが降りるくらいでは業界が改善に動くことはなく、組合をつくって共同で降りるしかないと指摘している。
それも大事な論点ですね。
— 森田宏幸 (@Morita626) 2022年10月3日
実はその(消極)策はとっくに採られています。人知れず落ちてるタイトルはあるし、フリーは「出来ません」が簡単に言えるから記事にある通り状況は悪く、作画監督10人以上の体制なんです。
これ以上の(積極)策は組合作ってストライキですね。 https://t.co/VVfywHjdoe
*1:あくまで匿名だが、数年前に辞めたツイートの他、何度か元制作進行としてツイートをしているし、一定の信頼はおけそうだ。
*2:はてなアカウントはid:unamuhiduki12で、はてなブックマークで同期したコメントをしている。
*3:一般論として、インタビューにあるようにマイナスを減らすことが得意であっても、高いプラスを出すことが得意とはかぎらない。
*4:こちらのツイートのツリー全体を参照のこと。
さてここで新キャラクターに登場して頂きましょう。 pic.twitter.com/tF377ZfSLq
*5:これ自体は業界の改善のひとつではあるだろう。この種類の話は視聴者の立場でもよく見るようになった。 この辺はトリガーのかたがインタビューに答えてらっしゃった夏コミで買った同人誌のとおりですね。あと知り合いに聞く話でもそうですね。「某作品がなんであんなスーパーハイクオリティかというと、実際の仕事が動く1年くらいまえから、まだ何もお願いすることがなくても拘束料払ってる」