法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『セイコグラム 転生したら戦時中の女学生だった件』

現代の若者が戦時中の著名人に転生し、インスタグラムに投稿するという体裁のNHK企画。
www.nhk.jp
昨年末に放映された古川ロッパ転生の第一弾につづいて、作家田辺聖子*1に転生した形式の30分ドラマとして、終戦記念日に23時から放映された。
下記エントリの感想で書いたように、第一弾はどの角度で見ても評価しづらかった。
hokke-ookami.hatenablog.com
比べると、この第二弾はかなりドラマとしての向上は見られた。
おそらくは、やりぬく技術もないインスタグラム形式にこだわらず、ずっと一般的なドラマとして構成したことが良かったのだろう。


誰が撮影しているのかわからないスマートフォンの客観的な映像を第一弾よりも多用しているが、情報量の薄い愚痴のようなモノローグを延々と聞かされるうっとうしさがない。結果としてわずかな自撮り映像もきわだって印象に残る。
より客観的な映像にすることで、当時らしい愛国心にあふれた田辺一家との衝突を描いたり、本物の田辺聖子が当時は好戦的で愛国心に満ちた少女だったことを率直に描く余裕がある。そこから軍国主義に同化したり抵抗する女学生の友人たちとのリリカルな、当時でいえばエスっぽいドラマも展開することができた。
ごく普通の一般人が戦争に参加することを望んでいた時代。転生先の主人公の本来の人格も例外ではない。男女平等を求めて社会参画したがる少女の意思が国策に動員されていく問題も描かれる。逆にそうした軍国主義に同化することを子供たちが糾弾することも、また別の同調圧力ではないかと自省する一幕もある*2
そして未来を知る人間として超越的にふるまうことができる現代人の主人公も、現代のありようについて沈黙する結末で、いまだ戦争がなくせていない問題と意図せず直面することになる。現代人が過去に転生する根幹設定に、ここで相応の意味が生まれた。


先述のように第一弾以上にインスタグラム形式の意味はないが、過去の人物を演じようとする主人公が資料を読んでいた時に転生することで、想像した歴史を脳内で追体験したかのように解釈することもできる。
そもそも現代の若者に歴史をつたえる手法として安易すぎないか、制作スタッフがバカにしているように若者には感じられるのでは、といった企画そのものへの疑問をぬぐうまでにはいたらなかったが、独立したドラマとしては良くなっていたとは思う。

*1:戦後に活躍した女流作家で、劇中で言及された代表作の『ジョゼと虎と魚たち』はたまたま最近にアニメ映画版を視聴して、それなりに現代で映像化した意味をもたせられているとは思った。 hokke-ookami.hatenablog.com

*2:ここは悪しき相対化になりかねないのでは、という懸念ももったが。