法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『シェラ・デ・コブレの幽霊』

若い夫婦の住む屋敷にて、母親の死体が安置された地下から、電話がかかってくるという。その地下で妻は謎の女性の幻も見る。心霊調査をおこなう建築士が謎解きに乗りこむが……


1964年に米国でつくられた、1時間半にも満たないモノクロのTVムービー。一時期は伝説的な最恐の封印作品となっていた。それがプライム会員向けに無料配信中。

『サイコ』*1の脚本を担当したジョセフ・ステファノの初監督作品でありながら、米国本国ではお蔵入りになっていたが、当時に日本に輸入されてTV放映。その後も何度か再放送はされたらしいが、映像ソフト化もされなければ資料もほとんど残されず、幻のホラー作品と化していた。
そこで2009年に調査バラエティ番組『探偵!ナイトスクープ』へ「史上最高に怖い映画」として探索依頼され、フィルムを所有している日本人がいることまでは判明し、TV非公開で上映会がおこなわれた。十年以上前に放映されたが、今も記憶に残っている。
残念ながら番組では著作権者が不明なため映像は画面に出てこず、商業化もできないまま時間がたったが、近年に米国で映像ソフト化された。

その映像ソースをプライムビデオが使用したためだろうか、古いTVムービーでありながら画質はかなり良い。それが作品にかけられた伝説の魔法を解いてしまった感はありつつ、たしかに中心的な幽霊の描写はきわめて先進的で見ごたえがあった。


おそらく幽霊表現はオプチカル合成だと思うが、「血まみれ」という劇中の評価とは異なる不快感ある姿で、コラージュしたような違和感が異物感として効果的。
近年の『見える子ちゃん』や『裏バイト:逃亡禁止』といった漫画でパターン化された手法を思わせて、この幽霊は数十年くらい未来を先取りしている感がある。

冒頭の叫び声や霧のたちこめた街、うちよせる波を合成したオープニング、地下室から海辺へのマッチカット*2など、他にも光る描写は複数ある。時代性を考慮すれば見て損はないだろう。


ただし本筋は私立探偵スリラーに近く、演出は全体的に牧歌的。建築士が恐怖におびえず早々に謎解きしていくため、恐ろしさをじっくり感じさせてくれない。あくまで建築士を探偵にしたシリーズ作品のパイロットフィルムと考えるべきなのだろう。
いわゆる毒親的な背景も『サイコ』の焼き直しだし、真相につながる描写が多すぎて意外性を感じなかった。神出鬼没の老女を実体ある人間として説明せず、夫婦や建築士にまとわりつく魔女めいた存在として位置づければ、もっと恐怖を感じられただろう。そこは少し残念だった。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:まったく異なる場面をつなぐ時、動作や構図が同じカットでつなぐことで連続性を感じさせる手法。