法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』母の日はおおせのママに/ノゾミルじゅう

 前後とも現キャラクターデザインの丸山宏一が単独で作画監督。前半の序盤など、キャラクターの全身がフレームにおさまりながら複雑な芝居を地味に破綻なく描いたカットの多さがすごい。


「母の日はおおせのママに」は、何でもいいという母の願いの難しさをスネ夫が指摘して、のび太たちは迷う。部屋においてあったスカーフをドラえもんのものと思って贈ることにするが……
 内海照子脚本で、アニメオリジナル秘密道具「かぐやスカーフ」が登場して、着けた人の望みを過剰に必ずかなえようとするスラップスティックコメディが展開される。
 さらに窓の外をウサギらしい謎の影が出没し、試供品と思われたスカーフは押し売りによるものだったと判明し、タイムリミットサスペンスで不穏感が増していく。
 しかし母の日にそぐわない雰囲気になりかけたところで、野比玉子が感謝に感謝を返して感動的な雰囲気に。さらに出没していたウサギは商号を勝手に詐欺につかわれた未来デパートの対策課と判明。
 原作の「未来からの買いもの」を思わせる逆転劇だがひとひねりしているし、竹取物語のモチーフという一貫性もあって悪くない。


「ノゾミルじゅう」は、のび太たちが捨て犬を見つけ、みんなで土管のなかで飼うことに。しかしのび太だけ餌を用意できず困っていたところ、家にきた車のセールスマンも売れずに困っていた……
 原作者の没後にカラー作品集に収録された短編をアニメ化。原作で似たようなパターンの秘密道具や物語が複数あるので、あまり新鮮味を感じない。
 アニメオリジナルのセールスマンも、まさに似たパターンの原作「ほしい人探知機」*1をそのまま引いた印象で工夫がない。それに前半に押し売りを登場させながら、後半のセールスマンに同情させようとする構成があまりうまくない。
 ただアニメオリジナル描写で、まず公園で何かをさがしている警官を先に出して犬をほしがっている人物と印象づけ、犯罪者が登場する伏線にしたアレンジはうまかった。そのほしがっていた犬は警察犬のことだったというツイストもいい。
 また、ドラえもんが買ったチョコ餡のどら焼きをのび太が犬に食べさせようとして、ドラえもんが止めた時に犬にはチョコレートが毒だと説明したことも感心した。犬や猫になんでも食べさせる描写への疑問をつぶして引っかかりがなくなるし、子供の視聴者向けの教育的効果もあるだろう。
 さまざまな人の隠している望みも、最初の公園は見た目の印象にそったステロタイプなものばかりだが、街中の群衆ではコワモテの男がショートケーキをほしがってたり普通の若い女性がオートバイをほしがっていたり意外性を出そうとしていたことも良かった。