法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』捜査ごっこセット/イースター島のモアイ

久々のアニメオリジナル二本立て。


「捜査ごっこセット」は、空き地に置いていたジャイアンのマイクから音が出なくなったことから、のび太に疑いがかけられる。のび太ドラえもんと秘密道具をつかって真犯人をさがすが……
鈴木洋介脚本の完全アニメオリジナルストーリー。ジャイアンのリサイタルを防いだことで最初は犯人を英雄視しながら、警察のふるまいを真似ることで捜査にのめりこんでいくドラえもんたちに、アイヒマン実験のような風刺性を感じた。もちろん、秘密道具をつかう途中で当初の目的が行方不明になるところは原作らしくもある。最も怪しいスネ夫が、英雄視した友人たちによって逃亡を助けられる展開も、現代アニメの刑事ごっことは思えない反権力ぶりでたのもしい。
指紋のひとつひとつを推測する描写も、シンプルだが推理っぽさがあった。第四の指紋があったことから真犯人が別にいることは明らかだが、マイクの見た目に異常がないことやジャイアンを恐れず壊した謎の回答として、まずまず納得。
しかしセットになった秘密道具が全てアニメオリジナルということもあり、あまり捜査中のディテールは原作らしさを感じなかった。たとえばオリジナルの「警察犬ロボット」ではなく、原作にある「警察犬つけ鼻」をつかうべきではなかったか。
ごっこの本気度が秘密道具ごとに大きく違うことも気になる。「指紋スイツキン粉」は指紋の人数ごとに色が変わったり、参考人の指を近づけるだけで同定できる便利さだが、原理や外見は本物を思わせる。それならば捜査が成功した時はファンファーレのように祝うのではなく、自動的に手錠をかけたり逮捕令状をプリントアウトするようにして、ごっこのリアリティをそろえてほしかった。


イースター島のモアイ」は、秘密道具で世界中を飛びまわって回答するクイズに、のび太出木杉を参加させる。クイズを楽しんで正答していく出木杉に期待を外されるが……
伊藤公志脚本のアニメオリジナルストーリー。秘密道具「アクションクイズ」で知識を試すために世界を旅する「クイズは地球をめぐる」*1出木杉の頭脳をあわせて、良い意味で学習アニメらしさが増していた。のび太ドラえもん出木杉だけで本筋が進行する珍しさも楽しい。
クイズも原作以上に歯ごたえあるものばかりで、ちゃんと取材したのだろうと感じさせる。なおかつイースター島に行く経緯がモアイと無関係なクイズを解くための地理的な理由だったり、のび太の誤答で結果として危機を脱したりして、ただ情報をならべたような単調な構成ではない。
問われる知識が理科よりだった原作に対して、社会よりの知識で解いていく展開も違う味わいを生んでいた。そこから環境問題や戦争を問題視する教訓がひきだされたのも、出木杉エピソードらしい真面目さで悪くない。戦争で倒されたこと自体が歴史の一頁なのに勝手にモアイを立たせた中盤には首をかしげたが、最終的に倒しなおす結論のためなので最終的には納得した。
三輪修作画監督で、ちょっと等身が高いが動きも表情も良い。佐野隆史コンテもロングショットを多用して、ほとんどの舞台が殺風景なイースター島なのに映像が変化に富み、モアイの巨大感もよく表現されていた。
クイズの回答につかうオリジナル秘密道具も、「転居テンキー」のシンプルな機能デザインとダジャレネーミングが原作らしい。ただ一点だけ、モアイ自身が意思と記憶をもってドラえもんたちの意図を超えて行動するなら、原作から引く秘密道具は「ロボッター」ではなく「たましいステッキ」がふさわしいのではないか、と思った。