法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』月の光と虫の声/ツモリガン

「月の光と虫の声」は、スネ夫が買ってきた虫の声をみんなに聞かせるが、以降は有料だといいはじめる。のび太は反発して虫がたくさん鳴いていた過去から持ってこようとするが……
2011年に八鍬新之介コンテ演出で映像化*1された原作をリメイク。今回は山岡実コンテ、篠塚滉平作画監督
過去にもどった時、家こそ建て替え前の古さだが、道端に古いデザインの自動販売機があったり、現代から約三十年という時代の微妙な新しさが感じられた。
そして2011年版と同じく、アニメオリジナル展開で少年時代の父親と邂逅する。今回は柿泥棒と疑われて追い出されたり、虫捕りに来ていたと知って助けてくれたり。十五夜の月見のためススキを採っている描写もあわせて、物語の季節感を強調しつつ、身近な自然の大切さを実感させ、のび太の選択の説得力を増す。それに虫を捕まえるため苦労した描写があるからこそ、逃がして自然のままにさせる決断が原作以上に印象深い。
タイムマシンの出入り口が縁の下にできる描写も、時間を超えた場所が足元にできるセンスオブワンダーがあって、父親がのぞきこんだ目前で消えていく描写ともども、今回の情感をよく支えていた。別れぎわに父からもらった柿を現代でしずちゃんジャイアンと食べることで、現代なりの月見の楽しさも描かれた。
もちろんそうした情感はスネ夫が虫を盗んで失敗するオチの助走でもあるが、金にあかせて籠の虫を自慢することへの批判に自然保護のメッセージを重ねあわせやすくなってもいる。もともと虫の音を楽しむ情感も重視した物語だし、それを強調する良いアレンジだった。


「ツモリガン」は、撃つと望んだとおりの体験をしたつもりになる秘密道具が登場。それでジャイアンを追いはらうことができたが、どら焼きの夢を見ていたドラえもんは納得しない……
氏家友和コンテ、小西富洋作画監督で、作画が良好。柔らかい輪郭のキャラクターが弾力的に動いてまわる。どら焼きフルコースも絵としてこっていて、再現してもおもしろそう。
原作での虚実が反転する切れ味するどいオチは改変され、ドラえもんが同じ秘密道具をもっていることを視聴者に開示した上で、たがいに相手に幻を見せようと戦う。前回放映エピソードに登場した押し売りがアニメオリジナルで再登場し、押し売りが成功して喜ぶ夢を見たり。
しかし拳銃の撃ちあいなら西部開拓時代で集団相手に勝利できるのび太が、ドラえもんと正面から戦って早撃ちで負けたことの違和感は大きい。原作では不意打ちだから成功したという解釈も可能だし、今回は母親からの宿題の命令をさえぎるほどドラえもんのどら焼き愛好が勝利にむすびついたとも考えられるが*2、たがいに狙いを外して無駄弾を撃ちまくった果ての決着というのは納得しづらい。せっかくアニメオリジナル展開にするなら、原作に説得力を足す方向へ工夫してほしかった。