法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

弁護士の高橋雄一郎氏が呉座勇一氏を擁護しようとして、まともに文章を読めなくなっていた

ツイッターの「いいね」に一定の責任を求めるid:hokusyu氏に対して、高橋氏は異なる話題の過去の文章を引いて内心を憶測していた。


呉座先生はラムザイヤー論文紹介ツイにいいねをつけた。北守はこれのみを根拠に「呉座勇一が歴史修正主義に共感的だった」と断じる論稿を発表した。この内容はオープンレターにも取り込まれ、いま訴訟の対象になっている。「いいねを慎重に使う義務」は北守の最後の砦。
web.archive.org

引用リツイートを見ると漫画原作者の喜多野土竜氏など、高橋氏への同調が目立つ。


ジオン兵「イイネなんてブックマーク代わりです。エロ嫌いな人にはそれがわからんのですよ」


池江璃花子選手を個人攻撃しまくった北守が何をいってるんだって感じだなあ。
自分の人権侵害は綺麗な人権侵害かよ。


しかし高橋氏のツイートは4月13日におこなわれている。はてなブックマークで指摘されたように、4月7日の時点で呉座氏自身が批判された過去ツイートを公表し、反駁していた。
[B! SNS] 高橋雄一郎 on Twitter: "呉座先生はラムザイヤー論文紹介ツイにいいねをつけた。北守はこれのみを根拠に「呉座勇一が歴史修正主義に共感的だった」と断じる論稿を発表した。この内容はオープンレターにも取り込まれ、いま訴訟の対象になっている。「いいねを慎重に使う義務… https://t.co/BZGbF73V2L"

id:yas-mal 本人の書き込みでも「歴史修正主義に共感的」な発言をしていますね。/ありがとう、まとめてくれた日本歴史学協会(&それを公表した呉座先生)。 https://ygoza.hatenablog.com/entry/2022/04/07/102424

具体的にはリストにされた「従軍慰安婦問題について」という項目で、歴史学会の声明に対して「性奴隷制度」という位置づけを根拠なく拒絶するツイートをおこなったり、いわゆる「鍵RT」*1で同様の意見をひろめたりしていた。
ツイッターの機能がどのように判断されるかは司法でわかれており、いまのところ「いいね」はブックマーク目的という可能性が認められたが、リツイートは名誉棄損になりうるという判決も存在する。
そのリツイート、名誉毀損かも 安易な情報発信に警鐘:朝日新聞デジタル

阪高裁判決はコメントを付けないリツイートについて、「元ツイートの表現が他人の社会的評価を低下させるものだと判断される場合、経緯、意図、目的、動機などを問わず不法行為責任を負う」と判断。その上で、投稿者には「投稿に含まれる表現が他人の品性や名声などを低下させないか、相応の慎重さが必要だ」と述べ、岩上氏に33万円の支払いを命じた一審・大阪地裁判決を支持し、岩上氏の控訴を棄却した。

さらに5月6日になって、反訴したと報告する呉座氏のエントリでは六つの「いいね」の他、リスト以外にひとつのツイートも「歴史修正主義」と評価する根拠として提示されたと説明して、反駁していた。
反訴の提起について - 呉座勇一のブログ

原告らは、歴史修正主義についての記載は、3件の投稿と6件の「いいね」を前提とした論評であり、投稿・「いいね」が真実であるから問題ないと主張しています。

また、これら投稿・「いいね」は全体の文脈の中で捉えると、いずれも歴史修正主義に同調するものではないことが分かります。

呉座氏は全体の文脈を提示していないので、その主張の根拠がわからない。しかしどちらにしても、hokusyu氏が呉座氏を論評する根拠は「いいね」だけではないのだ。


そもそも高橋氏が根拠にしたhokusyu氏の文章だが、提示されている記事を実際に読んでみると、高橋氏が単純な誤読をしてしまっていたことがわかる。

 呉座勇一の歴史修正主義ツイートは、主に日本軍「慰安婦」問題に関するものだった。「慰安婦」の性奴隷制を否定するものや、直近では、国内外の研究者によって学術的な欠陥が指摘されているマーク・ラムザイヤーの「慰安婦」は性奴隷ではなく商行為だったとする論文を支持するツイート複数にいいねをつけていたことがわかっている。

「Xや、Y」という文章を読んで、XとYが同じものとしか解釈できない高橋氏は、はたして弁護士をやっていけるのだろうか*2
たしかに「性奴隷制を否定するもの」と「性奴隷ではなく商行為だったとする論文を支持するツイート複数にいいねをつけていた」は印象としては重なる。しかし、わざわざ読点をはさんで「直近では」と時系列も明記しているのに誤読したなら、さすがに書き手ではなく読み手に責任があるだろう。
hokusyu氏が「いいね」の責任を重視する因果について推論を誤った高橋氏は、陰謀論に片足をつっこんでしまっている。呉座氏を擁護したい心理が先入観となって誤読をまねいたのか、それとも誤読によって先入観を強固にしてしまったのかはわからないが。


最後に、私は上記で指摘された他にひとつ、従軍慰安婦問題にまつわる呉座氏のツイートを知っている。それは元朝日記者の植村隆氏が「捏造」という評価に反論したことへの、否定的な論評だった。
植村隆記者による従軍慰安婦報道は、表現の慎重さにおいて頭ひとつ抜けていた - 法華狼の日記

日本中世史研究家の呉座勇一氏*3も、植村氏が先行研究を引いたことに上層部の意図をかんぐっていた。

先行研究から通説を引いた時、その誤りを専門家が見ぬけなければ批判されることがあるかもしれない。それでも、通説を引いたこと自体に特別な指示を見いだすのは、ただの陰謀論でしかあるまい。

はてなダイアリーというサービスからはてなブログへ強制的に移転されたこともあり、埋め込んだツイートは現在のエントリから消えているが、呉座氏は下記のように発言していた。

植村氏の反論は立場上「他紙も書いていたのになんで俺だけ」と言わざるを得ないから分かりにくいのであって、「上の指示で書いたのになんで俺だけ」というホンネに翻訳すると、とても明快になる。

攻撃的な報道により教授職の内定をとりけされ、さらに脅迫などもあって非常勤講師の立場も失わされた植村氏に、当時の呉座氏は陰謀論をもって攻撃に同調していたのだ。
誹謗中傷をおこなった責任があるとはいえ多くの批判にさらされ、弱い立場で勤務先と争っている現在の呉座氏を考えると皮肉だが、だからこそ今さら指摘したくない気分もあった。今回のエントリでとりあげた出来事がなければ、ほりおこすことはなかっただろう。
ただせめて、呉座氏が起こしている複数の裁判でどちらにどれだけ正しさが認められるかとは違う問題として、今の呉座氏が植村氏をおもんばかることができるように願っている。

*1:鍵をかけたアカウントの発言が、第三者によって公開されることもある慣例を、ここで呉座氏自身がおこなっていたことが興味深い。一応、「鍵RT」では発言者が誰なのかは秘匿する慣例があるようだが、それはそれで「いいね」はもちろん一般の「リツイート」よりも拡散者の責任が重くなるのではないだろうか。

*2:他の可能性としては、「「慰安婦」の性奴隷制を否定するもの」と「国内外の研究者によって学術的な欠陥が指摘されているマーク・ラムザイヤーの「慰安婦」は性奴隷ではなく商行為だったとする論文を支持するツイート複数」の両方に「いいね」をつけたという解釈もできなくはない。しかし高橋氏は「ラムザイヤー論文紹介ツイにいいねをつけた」「これのみ」と、「いいね」の対象を限定して解釈している。