荒廃した世界で、危険な仕事を請け負う女性デュナンとサイボーグ男ブリアレオスがいた。これが最後と決めていた運び屋の仕事が襲撃で失敗し、コンビは追加で危険なドローン排除の仕事を請けるが……
士郎正宗の長編漫画『アップルシード』を原作として、主人公コンビの前日譚を描いた2014年の3DCG映画。本編を3DCG映画化した『APPLESEED』『EX MACHINA』の荒牧伸志が監督をつとめ、海外で先行公開された。
かなり映像の完成度は高い。複数の短編長編で技術を向上させてきた監督による、フォトリアルな3DCG作品の到達点*1。これまで原作の映像化といえば、ガイナックスが他社へ仕事を丸投げした1988年のOVAは語り草になるひどさで*2、トゥーンシェードで情報量を落とした2004年の『APPLESEED』も多脚戦車の都市蹂躙くらいしか見どころがなかった。
今回もよく見ると建造物や車両は縦横の直線が多くてモデリングが単純そうだし、そもそもポストアポカリプス世界なので荒涼とした廃墟に少人数がうごめくだけではある。その登場人物の多くも無機質なサイボーグで、生身のデュナンと少女は髪を短く刈って毛の流れを自然に見せる必要を消している。
しかして細部までていねいに省力することで、日本の安い技術力*3でもつたなさを感じさせず、安心して映像を楽しめた。無機物や皮膚の質感もしっかり差別化できている。暗い地下鉄から晴天の荒野まで、銃撃から格闘まで、戦場も戦闘も多彩で飽きさせない。闇で塗りつぶすこともせず、見えにくさで技術力をごまかしていない。
物語は単純で、良くも悪くも映像を楽しむことだけを重視した、わかりやすい悲劇のドラマといってもいい。強大な兵器を動かそうとする集団と止めようとする集団が戦うだけで、私益のため動く双角という男がアクセントになる以外は、ほぼ一本道。
士郎正宗作品にしては主人公たちが考えなしに行動したりプロフェッショナルらしからぬところも多い。しかしこれは意図的にアマチュアのように描かれていると思うべきだろう。双角から仕事をもらえなければデュナンは娼婦になっていたと語られたり、ブリアレオスの身体が何者かにより動作不良にさせられていたり*4、うまく戦えなくても自然な立ち位置だ。
ただ、そうして攻防の果てにたどりついた兵器が多脚戦車のプロトタイプだったのは、違和感こそないものの違う展開にしてほしかった気分もある。クライマックスに多脚戦車との戦闘を配置するのはOVAからくりかえされており、あまりに新鮮味を感じなかったのが正直なところ。
ちなみにデュナンと少女の会話が多く、恋愛的な内容はまったくないのでベクデル・テストはパスする。ただ敵味方の関係でも女性同士、男性同士の会話が多くて、立場を超えた抗議をおこなう場面などが少ないことは気になったし、ベクデル・テストという目安の難しさも感じた。
*1:技術的にはオムニバス作品『Halo Legends』の担当作品で、すでに見られる映像にはなっていたが。
*2:DVD化されていて手元にあるが、本当に内容は……
*3:エンドロールを見て、HALや東京コンピュータ学院といった専門学校からスタッフにクレジットされていたことには驚いた。
*4:少なくともこの映画単独で評価するなら、妨害の犯人がはっきりしないのは物語の穴というしかない。その不信感がドラマに昇華されることもなく、修理シーンだけで言及が終わってしまう。双角がおこなった可能性が語られて、以降の展開で敵か味方かはっきりしない不安感を生むものの、それを意識しつづけていると結末が納得しづらい。