法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『SHORT PEACE』

大友克洋監督を中核とした企画「ショート・ピース プロジェクト」。その一環で制作され、一部は先行発表された短編アニメを集めて、2013年に公開されたオムニバス映画。
映画『SHORT PEACE』オフィシャルサイト
大友克洋関係のアニメらしく、『スチームボーイ』『FREEDOM』にひきつづき、制作会社はサンライズ。日本テーマの企画だが、どれも大友作品らしいシュールな味わいが満ちていて、国粋主義的な印象はない。


『オープニング』は森本晃司監督。約4分。神社でカクレンボをする少女が、不思議な世界に導かれていく。
和風の雰囲気からポップカルチャーまで流れるようなプロモーションとしては完成度が高いが、完全に手癖で作ったような映像で、過去の森本晃司作品からの飛躍を感じない。


『九十九』は森田修平監督。約13分。江戸時代、奥深い山の祠で雨宿りした男が、たくさんの付喪神に出会う。
アカデミー賞短編アニメ賞ノミネート作品。人物も怪異も3DCGで描画されているが、グラデーションの影をつけつつセルアニメのように平面的なビジュアルなところが高評価されたのだろうか。
物語はシンプルで、捨てられた物品が怪異となった付喪神を、男が修繕してやって最後に恩返しされるというだけ。後味が悪いわけではないし、カエルのような付喪神はかわいらしいが、良くも悪くも引っかかりがない。


火要鎮』は大友克洋監督。約11分。江戸時代、幼いころに仲の良かった男女が、ふたたび出会おうとする。
タイトルは「ひのようじん」と読む。「八百屋お七」のような物語だが、火消しになるため勘当された男子と、縁談を嫌がる女子という関係で、より悲劇性を高めている。火災の発生も事故を見逃したかたちで、心情によりそいやすい。
映像面では、巻き物が開く導入から、横スクロールで江戸の街が描かれていくまでは絶品。しかし絵巻物のように見せていくコンセプトは崩れていき、パースのない背景美術という面白味も火災シーンで消えていく。炎のフォルムや人物画を日本画のように描くというコンセプトは残っているし、アニメーションそのものの楽しみもあるが、趣向の楽しさはシネマスコープサイズとしてしか残らない。せめて最後に炎が江戸を埋めつくした時、絵巻物である画面そのものが燃えていく……くらいの遊びはほしかった。


『GAMBO』は安藤裕章監督*1約12分。戦国時代の東北で、白い巨熊と幼女が出会った。一方、村を襲う鬼を対峙するため武者集団がやってくる。
鬼と熊のプロレスを人間が見守るというアイデアありきの短編。しかし鬼の由来を地球外に求めるベタな設定から、宇宙船が落下したクレーターをコロッセオにする情景へと結びつけたのは悪くない。
キャラクターは3DCGで表現しているが、手描きのように輪郭線を荒らす手法が興味深い。さらに芳垣祐介がキャラクターデザイン*2作画監督を担当し、動きにも手を入れているという。他、アクションシーンの血飛沫などで手描き作画も楽しめる。


武器よさらば』はカトキハジメ監督。約23分。近未来の東京で、パワードスーツを着た5人が、無人戦車との遭遇戦に陥る。
このオムニバスで既存の大友克洋短編を原作とした唯一の作品*3。企画テーマにあわせて廃墟の舞台を東京へ変え、濃厚で空虚な戦場を描きだす。単独作品としての満足感は最も高かった。
すでに『ケロロ軍曹*4でコンテ演出の経験があり、かつて模型企画「ガンダム・センチネル」で巨大ロボットが戦うオリジナル短編漫画も描いただけあって、初監督作品ながら映像表現の完成度は高い。遭遇からの延々とつづくアクションの情報量は濃く、立体的な戦場と、知恵をつかった高度な電子戦がわかりやすく表現されている。息つくひまもないようでいて、市街戦から地下戦へと移行する情景の変化で飽きさせない。3DCG技術を活用しつつ手描き作画の見せ場も存分にある。
そうしてミリタリ趣味を満足させるアクションを提供しておいて、大友短編漫画らしい乾いたオチで戦いの意味を崩壊させる。ブラックな風刺作品としてやるべきことをやりきっている。


全体として、物語を楽しむには尺が短すぎるし、オリジナリティもオチも弱い。日本テーマというにはまとまりが弱いと思ったし、それでいて『九十九』と『GAMBO』はネタがかぶっているようにも感じた。
しかし最後の『武器よさらば』が必要充分に楽しくて、とおして見た時の満足感を与えてくれた。オープニングが安易な美少女の表象で始まりながら、小汚いオッサンの表象で終わるというコントラストも楽しい。他の作品も技術は見どころがあったし、多くを期待せず映像プロモーションとして見れば、悪くない作品ではある。

*1:おそらく初監督作品。原案や脚本は石井克人

*2:原案は貞本義行

*3:大友作品も『火之要鎮』という短編漫画を原作としているが、内容は別物。

*4:佐藤順一総監督がストーリーアドバイジングとしてクレジットされている。