法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 Season20』第7話 かわおとこ

母子家庭の少年が、母親が寝ているあいだに川に流された。姉によると、川男という妖怪のしわざらという。その川では数年前に水質汚染が問題になり、今また魚の変死があいついでいる。
数年前に汚染源となった工場の下流に別のガラス工場があり、そこは排水をタンクにためて再利用していた。そのガラス工場の若手社員も数ヶ月前に川に流され、溺死したというが……


今回の山本むつみ脚本は、古典的かつ現代的。母子家庭の生きづらさに、公害と妖怪をからめて、1時間の刑事ドラマにきっちりまとめている。
まず水質汚染を自主検査する住民運動にエキストラを用意し、VFXで風景に工場を合成したり、それらしい工場ロケがおこなえたのは、人気ドラマのリソースあってのことだろう。
その運動に参加している住民に母子家庭への評価で温度差をつくり、ただの群衆ではなく個性ある人々と感じさせたのも良かった。そこから特命係が住民の協力をえる展開にもつながっている。工場の社員にも温度差があり、組織のなかのそれぞれの選択が味わいあるドラマをつくっている。


もちろん川男に見えたのは黒いウェーダーを着た人間だったし、タンクにためた排水はもれだしていた。だいたいの真相を予想するのは難しくない。真犯人を特定するにあたって後づけの手がかりを出したことも感心しない。
いっそのこと水質汚染が過去にあったという歴史はなくして、川魚の怪死も妖怪のしわざのように視聴者へ見せかければ、もっと超常を現実的に解明する驚きがあったかもしれない。
しかし福島原発のような汚染水漏れや市民の自主検査を思わせる現代性を1時間のドラマに凝縮したことは貴重だし、水質汚染が真犯人を特定する展開も皮肉なだけでなく環境調査の重要性を感じさせる*1
妖怪の存在を信じずにいられなかった少女の動機をほりさげ、環境破壊とはまた別の社会問題に目くばせしたことも良いアクセントになっていた。

*1:ただ、良心的な社員の検査と、住民の検査をくみあわせて確定する描写にすれば、立場をこえた連帯感が出て良かったと思う。