第8話に参加したアニメーターのメイキング配信が発言内容で炎上し、アニメーターと監督が謝罪をして、それでもまだ非難がつづいている。
アズールレーンに参加したアニメーター「どこまで手を抜けるかを追及した」 - Togetter
創作と批評をテーマにした『エスパー魔美』の1エピソードに、「飲んだくれて鼻唄まじりにかいた絵でも、傑作は傑作。どんなに心血をそそいでかいても駄作は駄作」という台詞がある*1。
その上で、作者に心血をそそいでほしいという受け手の感情も理解はできる。
しかし問題のアニメーターは創作に情熱をそそいでいないわけですらない。
ひとつのカットごとに省力する手法をみがくことを「手抜き」と表現していたと、id:samepa氏が発言の背景や前後の文脈から指摘している。
『アズレン』アニメーターの炎上は妥当だったか? - シン・さめたパスタとぬるいコーラ
劇場アニメなどではない、テレビアニメならではの表現としてどのようなものが可能か? という問題意識を持ちながら表現しているに過ぎない。
韜晦や諧謔に満ちつつも、自身を鼓舞させるように仕事へ向きあう発言と私も感じた。そのように解釈することは難しかったのだろうか。
逆に、原作のファンが悲しむ気持ちもわからないではないが、そこで自分たちは忘れることはないという思いを伝えることはできなかったのか。
WEBの無料配信で追いかけているので、問題の第8話も少し遅れて試聴することになったが、後述する第4話に比肩する素晴らしい出来だった。
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田中宏紀が絵コンテ演出作監をひとりで担当。キャラクターが思い思いの姿勢をとってランダムに配置され、動かさなくても絵がもつ*2。軍艦は構造を見せるように真横から精緻に作画して、止め絵を引いているだけでも画面が成立している。
一方でアクションはよく動かしている。水面を疾走するスピード感や水飛沫の表現は、これを今後の基準としてほしいくらいだ*3。特に、水飛沫がキャラクターの動きに安易に反発せず、切り裂かれて膜状になるのが良い。
問題のアニメーターが配信したクライマックスも、あえて滑らかでないタメた動きが、一撃のカタルシスを増して心地よい。直後の外国人アニメーターが担当した空中の手つなぎシーンともども良いものだった。
また、注目作品だからこそ、小さな火種でも炎上させられたという側面もあるだろう。
たとえば原作ゲームからつながる設定だけでも、「はちま起稿」のようなサイトが「反日アニメ」という反応をまとめていた。
【悲報】アニメ『アズールレーン』、日本が敵となる設定でアニオタ困惑&炎上! 「アズレンは反日アニメ。課金してるやつスパイじゃん」https://t.co/nRGWVompgJ
— はちま起稿 (@htmk73) 2019年10月4日
外敵への対抗策で意見がわかれ、主人公陣営と対立することになる陣営のモデルが枢軸国というだけで、本来の敵が異なることは最初から明らかなのだが。
さらに第1話が映画『パールハーバー』に酷似しているから「反日」だという反応も複数サイトにまとめられていた。
【悲報】アズレンアニメ、反日描写で物議を醸した映画『パール・ハーバー』と酷似 https://t.co/6iULwKidbH
— アニゲー速報 (@anige_sokuhou) 2019年10月11日
その共通点は史実の真珠湾攻撃をモチーフにしている部分なのだが、つまり現実の歴史が「反日」ということだろうか。
さらに先述の第4話も、アニメーターにからめて炎上させようという動きがあった。
そのエピソードでは、『ご注文はうさぎですか?』の第4話で注目されたアニメーター大島縁*4が、ひとりでコンテ演出作監一原まで担当。あまり描写されなかった対立陣営に視点を移し、それまでの水上戦とは異なる立体的な潜入アクションを展開した。
前後のエピソードと比べても全体をとおして良い絵が楽しめたし、基本3DCGの水面を手描きでしたカットなどアクションも目を引いた。しかし、動いている一部を静止画でぬきとって「作画崩壊」と評するような悪質なサイトがいくつかあった。
【悲報】今季覇権予定#アニメアズレンさん、4話目にして作画崩壊wwwww - https://t.co/8mMMAKnKEG#アズールレーン pic.twitter.com/W0yKTGbQx3
— ぴこ速(〃'∇'〃)@2chまとめ (@pioncoo) 2019年10月26日
特に注目されているカットは、急接近による突然の魚眼レンズ的な効果をねらっている*5。
それが伝わらない視聴者に批判されるのはしかたないとしても、手前に向かってくる一連の動きの一コマということは理解されるべきだ。
こうした炎上させる動きがあるなかで、関係者は慎重に動いてほしかったという批判なら、まだしも理解できる。
そもそもアニメーターの炎上した発言は、公式に広く見せる性質のものではなかったはずだ。アニメーターの立場や仕事を理解している聴視者*6へ向け、難しい文脈を理解してもらえるクローズドな発言に近かった。
変身や必殺技の映像を使い回して省力する手法や、動画枚数を減らして滑らかなだけではない動きを作ることは、日本のアニメでは一般的だ。さらにコピーなども活用して、今もさまざまな省略の技法が発展しているし、そうした試行錯誤を語るインタビューは興味深い。
クリエイターズVOICE <第1回> | アニメ ビジエンス
2クールの中に僕なりにかなり並べることができて、今、スタジオでは「作業的に手抜きでいいから、とにかく早く作ってくれ」と言ってます。
アニメ的に動いてくれればいいので気楽にやってくれていいんだけど、それは、さっき言ったとおり、メッセージはきちんと押さえているという自信があるからというのもあるわけです。そういう意味では多少うぬぼれてもいるし、嵩に懸かってる部分もあって、そういうものがなければ手描きアニメをやるのはかなりきついだろうなというのも感じています。
映像ソフトで公式に収録されるようなスタッフインタビューでも、必ずしも制作を代表する意見ではない。
ここが大規模に炎上しがちな企業広告などと異なる。
本来ならば、文脈を解する情報をもたない第三者が、意図せず見てしまうことは想定しえない発言だったはずだ。