法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『惡の華』ノ挑戦ガ『ノラガミ』デ咲イタヨ

ノラガミ』でメインキャラクターの物語に一区切りがつき、原作連載中ゆえアニメオリジナル最終回の前編となる第11話。
ノラガミ [第1話無料] - ニコニコチャンネル:アニメ
BONES制作と聞いてから待ち望んでいた超作画バトルを、存分に味わうことができた。

予告映像では中村豊かとも思ったが、EDクレジットを見ると田中宏紀だった。人体のフォルムの硬軟は違うのだが、飛び散る火花の表現が似かよっている。
また、後半から水流攻撃のエフェクト作画が全く違うので別人だろうと思ったところ、やはり大森裕紀という若手アニメーターの仕事だったとのこと*1


しかし今回はアニメーションとしての動きの快楽だけではない、良い意味で「アニメ」らしくない違和感のあるカットが目立った。
その薄暗いリアルな町並みを見ていて、ふと思い出した作品がある。TVアニメでは珍しく全話ロトスコープで制作された『惡の華』だ。
アニメ「惡の華」公式サイト


似ているのは風景の色合いや作画の緻密さだけではない。
たとえば8分50秒ごろにコピックがバラバラと落ちるカットは、『惡の華』第七回でチョークが舞うカットを想起させる。

アニメーターが奮闘して手描きで似たような作画をすることもないではない。しかし、そうした現実よりも見栄えするよう想像で描いたカットと違って、『ノラガミ』のそれは物理演算したような動きに感じられる。このコピックも実写素材を参考にしたのではないか。


また、背景を静止した一枚絵にせず、執拗なまでに近景中景遠景を階層わけし、階層ごとに速度を変えてスライドしている。これは密着マルチという古典的なアニメ技法だが、その階層わけが通常よりも多い。


7分5秒から7分8秒までの不穏なシーンで、主人公たちのまわりを静かにカメラが回り込んでいるように見せるため、登場人物をふくめて5枚の階層にわけている。

その後も回り込み終わる7分14秒までのカットが、全て密着マルチで処理されていた。
ゆっくりした動きなので、ここは一枚絵を左右にスライドするだけでごまかせる。スライドの速度が不適切だと、むしろ近景と遠景の距離感が崩れて違和感を生みかねない。それでも手間ひまをかけたことで、人の気配がない夕暮れ時が表現されていた。


おそらくポイントとなるのは、第11話でコンテ演出を担当した平川哲生*2。『惡の華』において、助監督や作画統括を担当。生々しい映像に貢献していた。その経験がついに活用されたのではないかと思うが、どうだろう。
『惡の華』ロトスコープの感想 - 法華狼の日記

アニメーターの表現力を広げる経験として高い価値があったろうことも、作品へ言及しているアニメーターの発言からうかがえる。連続TVアニメとして多くのアニメーターが長期間にわたって参加したからこそ、日本アニメの発展に寄与するだろうと予想するし、そうなるよう希望する。